張はアメリカの「テキサス・インスツルメンツ」に約25年間勤務した後、台湾政府から同国のハイテク分野を育成するために招聘され、TSMCを創業した。ニューヨーク市場に上場するTSMCは、張が盤石な体制を築いたおかげで、今後5年は経営が安泰だとアナリストは述べている。
「彼の引退は業績に何ら影響を及ぼさないだろう。スティーブ・ジョブス亡き後のアップルに状況は似ている」と台北本拠の調査企業「Yuanta Securities」のGeorge Changは話す。
張はTSMC株式の0.5%を保有し、資産額は9億3000万ドル(約1025億円)と推定される。彼は昨年、フォーブスの「台湾の富豪50人」にランクインした。
現在86歳の張は、数年前に「共同CEO体制を敷く」と宣言し、引退前にそれを実現した。今週、共同CEOである劉徳音(Mark Liu)と魏哲家(C.C. Wei)が張から経営を引き継いだ。
「二人のCEOは張博士が何年も前に打ち立てたミッションを今後も遂行していく」と同社の広報を務めるElizabeth Sunは述べている。
TSMCは2022年までに3nmプロセスを適用したチップを製造する工場を台湾に建設する予定だ。同社は張時代に28nmチップの量産を実現し、小型デバイス向け市場で圧倒的なシェアを獲得した。
「28nmプロセスの量産化は、TSMCにとって最も重要なステップだった。スマートフォン市場の拡大により28nmプロセスで製造したチップが主力製品となり、TSMCのファウンドリ事業(半導体の受託生産)は競合に比べて優位に立った」と台北本拠の「TrendForce」のLin Jian-Hongは話す。
TSMCは小型チップの開発でサムスンやIBMと競合しており、アップルのような大口顧客の獲得を目指している。
しかし、これから5年先を予測するのは難しいとアナリストはいう。その頃には、TSMCは海外に工場を移転しているかもしれない。また、中国のチップメーカーは政府の支援を受けて勢力を拡大しており、TSMCのシェアを奪うかもしれない。
台北本拠の「Market Intelligence & Consulting Institute」によると、今年の台湾の半導体メーカーによる出荷額は前年比5.8%増の822億ドル(約9兆円)に達する見込みだが、世界の平均成長率を下回るという。