ムハマド・ユヌスとも提携 吉本興業よ、どこへ行く

吉本興業代表取締役社長の大崎洋


吉本興業は近年、矢継ぎ早に新たなパートナーと新規事業を打ち出している。

北海道、福島県、鹿児島県といった地方自治体との連携、SDGs(持続可能な開発目標)を打ち出す国連との協力関係、ソフトバンクモバイルと組んだロボット「ペッパー」の開発、在阪民放5局などと大阪城公園内にサーカスから演芸まで多ジャンルを上演する「クールジャパンパーク大阪(仮称)」の設置、そしてベンチャー企業への投資を目的とした「よしもとベンチャーファンド」の設立。

「ファンドといっても、純粋にリターンを求めるファンドではなくて、やっぱり面白い若者たちをみんなで育てていこう、とね。どこかが突出して良くなっても、全体が底上げされないと成長しませんよね。みんなで一緒に、という発想ですよ」

実はこうした考えは、1980年代末に抱いた危機感と好奇心からスタートしている。

「それまで、今いくよ・くるよさんの派手な衣装を抱えて地方を回っていたら、衛星放送が始まって、世界チャンネルになって、空から電波が降ってくるという時代に変わりました。それで、新しい場が必要だと思ったんです」。それはスペースの場だけではなく、「現場の熱量も含めた場」をいかにつくるか、だった。

「この60年、テレビ局に出入りさせていただき、やってきた会社です。テレビ局さんとの関係をより強化するのはもちろんですが、これだけ猛スピードで時代が変わるとき、“ザ・芸能界商店街”のどこかに店を出して頑張る以外に、もう一つ、別の場を自分たちでつくろうと、10年前からアジア、地域、デジタルの三つをキーワードにしてきました」

中でも相性が合ったのが「ソーシャル」や「共同体」という文脈だろう。3月末、ユヌスを招き、都内で「ユヌス・よしもとソーシャルアクション」のお披露目ディスカッションが開かれた。ユヌスをいじり、会場を沸かせた人気絶頂のゆりやんレトリィバァは、元「奈良県住みます芸人」である。

「なぜ吉本がそんなことを?」と聞かれると、大崎はこう答えている。

「分不相応かもしれない高い目標を掲げることで、社員も芸人もまた頑張ってくれると思うんですよ」


おおさき・ひろし◎1953年、大阪府生まれ。78年、関西大学社会学部を卒業後、吉本興業に入社。82年に吉本総合芸能学院(NSC)の担当となり、一期生のダウンタウンの東京進出など若手芸人の育成を担当。2001年に取締役、06年に副社長に就任し、09年より現職。

文=藤吉雅春、大迫知信 写真=帆足宗洋

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