「喫緊の課題として、企業は『Innovability(イノーバビリティ)』に取り組む必要がある。だからこそ、私は世界で初めてChief Innovability Officer(チーフイノーバビリティオフィサー)になったのだ」。
3月初旬、「COPING WITH CHANGE:GLOBAL WARMING AND DECARBONIZATION」(主催:ALCANTARA S.p.A.)と題されたシンポジウムがイタリア・ベニス国際大学で開催された。
開催期間中は3月初旬にもかかわらず連日の雪。寒々とした空は、まるでシンポジウムの参加者の危機感をあおるよう。熱気を放っていたのが、エネルギー大手Enel Group(エネルグループ)でChief Innovability Officerを務めるエルネスト・チョーラである。冒頭の発言は、彼のプレゼンテーションの第一声だ。
いままで、イノベーションとサステイナビリティは別々のものとして考えられてきた。彼はその双方を経営戦略の中で一体として考え、実行すること、この両者を掛け合わせたInnovability(イノーバビリティ)こそ、企業が長期的競争優位性を保つために必要だと主張する。
近年、サステイナビリティは単一の企業の持続可能性を考えるのみならず、企業を取り巻く社会全体の持続可能性を考える取り組みに深化してきている。この流れのなかで、サステイナビリティへの取り組みはコスト増加要因としてとらえられがちであった。
一方でチョーラは、サステイナビリティへの取り組みこそ、長期的には企業に収益をもたらすと確信している。
「イノベーションを実現するために必要なことを知ってるかい?世界最高の人材だよ。ではどうすれば、彼らを引きつけられると思う?金には興味はない。そもそも企業にも所属したくないだろう。ではどうするか?人類に貢献しうる社会課題の解決に、我々も本気で取り組むことだよ」とチョーラは言い切る。
不確実性の時代といわれる現代。いかに大企業といえども、自ら能動的に破壊的イノベーションを創出しなければ生き残っていくのは難しい。破壊的なイノベーションの波にいかに対応し、長期的な競争優位性を維持するのかは経営戦略における最も重要な懸案の一つだ。
チョーラは、その難しさを認識するからこそ、破壊的イノベーションの創出にベストを尽くすなら世界最高の人材が必要だと主張する。サステイナビリティはある意味で人材確保のための方策であり、世界最高の人材との共通の志になるのだ。
確立された競争優位性をもつ既存の大企業が、自社の競争優位性を駆逐する可能性の高い破壊的なイノベーションに取り組むことは難しい。理由は主に2点。第一には、自社の現在の優位性を危機にさらすことに他ならないため。第二には、初期の破壊的イノベーションは、運用中の自社技術よりも技術水準が低く、既存の顧客を満足させられる可能性が低いからだ。
すでにヨーロッパで屈指のエネルギー大手として事業を営むEnel Groupも状況は同様。エネルギーの安定供給を何より求められる先進国では、先進的かつ実験的な技術を導入するにはリスクが高く、イノベーションが難しいことを認める。では、どうするのか?