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それによって、「人間」を科学することができるのか

それぞれの解析技術が飛躍的に発展しているにもかかわらず、それらの統合的な解析は実現されてこなかった。しかし、各分野の研究者のとがった技術をあわせれば「人間」でさえ解析できるのではと思ったんです。

人は、少々大胆に言えば、「食う・寝る・働く(活動)」で生きている。ならば、「腸」と「睡眠」、そして、活動として「骨」、活動によって変化する「エピゲノム」の専門家たちとの研究からはじめようと。そして、それぞれの相関関係を個人の中で見ながら、その人が今どんな健康状態にあるのかを導き出す。

それは、おそらく「予防」という観点で極めて重要なデータになる。そして、それら個々人の大量のデータを横並びにすれば、人類全体がどんな方向に進化しているのかすら、見えてくるかもしれない。

いずれは、人間を人間たらしめている「人を取り巻く環境」の研究にも着手できると思っています。

ただ、そんな健康であるために「最適化された状態」は、果たして人間にとってよい環境なのか

僕たちは、ぬるま湯の状態をつくり出したいのではなく、人間の進化を促そうとしているんです。生物は、世代を経るごとに選択圧がかかります。選択圧とは、生物種を環境が淘汰しようとする圧力のことで、この圧力を乗り越えることで生物には選択が働き、進化が促されるのです。

たとえば、菌の培養などと比べると、人間の環境への適応は非常に長い期間を要する。人間の進化の鍵をにぎるのは、人間を並列化して同一の進化を起こすことではなく、一人ひとりが持つ特徴を生かしていくことなんです。個々のとがっている部分を伸ばす。それによって、多様性が担保されていくのです。

人間が「健康」を手にしたとき、その先にある“生の意味”とは

現時点で未来の価値観を予想することは、大変難しい。しかし、健康が当たり前になったとき、必ずや価値観のシフトが起きると思っています。

たとえば、昔は、労働することによって、つまり体を酷使し行動することで賃金を得ていました。けれど、それが今ではお金を払ってジムで走っている。健康が保証されるなら、これ以上に価値観が変わってもおかしくありません。

地球はあと50億年、もしくはもっと早くに消滅することが決まっている。だとすると、最終的に人類はそこに向けて進化しなければならない。そのためにも、「人間はどうあるべきか」という研究を進めなければなりません。

井上さんを引きつける「研究」の魅力とは

研究者になったきっかけは、脳外科医で研究者だった親父でした。休みの日も研究ばかりしていて、家にもいない。そんな生活は嫌だと思っていました。ただ、自分が研究を始めて、シビレるような体験をしたんです。研究は、誰も知らないことを発見していくこと。つまり、「世界初」が自分の手で、自分の目の前で起こるわけです。

僕はここにドハマリしました。そして、ようやく、親父がなぜあんなにのめり込んでいたのかがわかったんです。いよいよ何か新しいことがわかる、そんなエキサイティングな瞬間のためなら、時間を忘れてやりますよね。

そして今、この「ヒューマノーム研究所」であらゆる分野の研究者たちと一緒に「世界初」に心震わすことを、今から楽しみにしているんです。


井上 浄◎株式会社リバネス取締役副社長CTO 博士(薬学)。大学院在学中にリバネス設立。北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教を経て、慶應義塾大学特任准教授。大学・研究機関との共同研究事業や研究所設立、ベンチャー立ち上げにも携わる。

インタビュー=谷本有香 写真=藤井さおり

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