もっと現実的な方法が古代にはあった。ポリネシア諸島やミクロネシア諸島の先住民は、多くの島を船で行き来していた。遺伝子の分析から、島民は台湾人との共通点があった。また、島々には言語の共通性があり、全長数千キロに及ぶ航路が張り巡らされていたと推測されている。
では、GPSがない時代にどうやって航行したのか。
まず、夜は星、昼は島影などを観察して方角を知った。もう一つ重要な方法が伝承されている。それは、心で目的地をつなぐこと。心でまず目的地の島を想像して、想像で航行してみる。自分と島をつなぐことが大事、ということなのだ。
航海士は安全な航路もすべて想像する。スムーズに想像ができれば、「つないだ」とされ、安全に航行ができたという。しかし、その行程を想像できなければ、事故が起こると考えられた。
私はロードバイクで山によく登る。自分と山の上をつなぐと、登る途中で山頂に到着している気になる。こうすると、不思議なほど気力が続く。
人生や仕事の目標も同じことだ。うまくいくプロセスをなぞってから仕事を始める。そうするとスムーズにことが運ぶ。うまく進まないときは、想像でもスムーズにたどれないことが多い。そんなときは、慎重にことを運ぶ。
これは「成功するイメージをもつと必ず成功する」といった自己啓発とは違う。まだ成功していないのに、成功した自分につなぐのは難しい。本当に必要なのは、古代の航海士と同じように、将来の自分のイメージまでたどり着くこと。これをスムーズに感じることが大切で、感じなければ、修正が必要な因子があるはずだ。
私は、脈診を若い医師に教えている。脈診ができるようになる人には、共通点がある。それは、できる前からできると確信しているのだ。脈を診れるようになる前に、それが可能だと確信できれば、スムーズに習得できる。実際に脈診ができる人がそばにいれば、さらにその意識はつくりやすい。
理想の自分、なりたい自分はみながもっている。しかし、がむしゃらに思い描くだけではだめなことを、古来の航海術は教えている。なりたい自分にたどり着くまでを、スムーズに想起できること。もしそれができなければ、何かの困難、無理があるはずだ。
習得の方法を変えて、想起してみればいい。自分の知っている世間の常識をつなぎ合わせて、なりたい自分への過程を想像する。すると、思いもしない幸運も含めて、想像の過程で描いたゴールが出てくる場合もある。それをつなぎ合わせて「なりたい自分」に到達できれば、あとは出航するだけなのだ。
さくらい・りゅうせい◎1965年、奈良市生まれ。国立佐賀医科大学を卒業。聖マリアンナ医科大学の内科講師のほか、世界各地で診療。著書に『病気にならない生き方・考え方』(PHP文庫)。