ビジネス

2018.06.13

熱狂、北海道!「地域ポイントカード」EZOCAの奇跡

3月10日に行われた札幌ドームでの開幕戦前の贈呈式


「去年、J1残留が決定したとき、このオフィスのフロアが花でいっぱいになったんですよ」と、野々村が笑う。「J1昇格のときも嬉しかったけれど、残留が決定しただけで北海道中から花束や胡蝶蘭の鉢が送られてきました。こんなクラブ、他にありませんよ。僕らが言う価値が伝わったのかなと思います」。

15年に富山は社長に就任し、16年、「サツドラホールディングス」にリブランディングした。その年、北海道に移住してきたのが、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)として入社することになる、萩原学である。ゴールドマン・サックス証券で全国の地方債など公共セクターを担当した後、Wantedly(ウォンテッドリー)の共同創業者となった萩原は、16年に仕事を辞めて、大好きな北海道に移住した。萩原もまた「面白い経営者がいる」と、富山を紹介された。

「平均賃金の低さなど、北海道は社会課題が多い地域だと社長は言います。道の財政も良くありません。でも、生産力などのポテンシャルがあります。魅力があるのにもったいないですよね」。

萩原は富山にこんな話をした。移住後、札幌の「MORIHICO」という喫茶店を手伝っていたときのことだ。「サードウェーブコーヒー」という言葉が登場する前から、古民家を改装し、ロースター工場をつくり、ハンドドリップで淹れるというサードウェーブカルチャーを実践していた。

「店の評判が上がると観光やインバウンド効果で一見さんが多く来店するようになります。しかし、ドッと来て、ドッと去っていく団体客ばかりになると、収益の変動が激しく、単価を上げざるをえません。値段が高くなると、地元の馴染みのお客さんたちが気軽に立ち寄れなくなるのです」

観光に力をいれればいれるほど、地元のいい店が地元から離れてしまう。解決手段はないものか。萩原はそう考えたとき、「決済手段を変えればいいんだ」と思いついた。「地元のお客さんは地域通貨で払い、観光客は現金で払う。決済手段で価格を変えれば、継続して愛用してくれるお客さんを大事にできる」と。

富山と萩原は意気投合した。「地域通貨をつくりましょうよ」「銀行をつくった方が早くないですか」。こうしたアイデアが現実味をもつのは、チェーンストアという「面」のインフラがあるからだ。

やりたいこと、やらなくてはならないことはたくさんある。仲間を増やそう、一緒にやりませんか、声をかけていくと、北海道に縁のなかった人たちがこう言う。

「面白そうですね!」

筋書きのない「EZOCA物語」は、まだ始まったばかりだ。


とみやま・ひろき◎1976年札幌市生まれ。札幌大学経営学部卒業後、日用品卸商者に入社。2007年サッポロドラッグストアーに入社。15年に社長就任。16年春からは新「サツドラ」ブランドの推進をスタートし、また、サツドラホールディングスを設立。17年にはAIやPOS開発のIT企業2社もグループ化し、テクノロジー分野にも参入。

文=藤吉雅春 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 「地域経済圏」の救世主」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事