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Forbes JAPAN 編集部 編集長


13年、野々村芳和はコンサドーレ札幌の社長に就任した。新聞が「待ったなしの状態」と書いたのは、Jリーグの新ルールにより、3期連続の赤字や債務超過となった場合、クラブライセンスが剥奪されることになったからだ。

ある日、野々村を紹介されたサツドラの富山は、一度、ドームで観戦することにした。富山は内心、「スポンサーになってくれと言われても、うちはカネないしなあ」とぼやき気味だったが、スタンドで彼は衝撃を受けた。

試合終了後、サポーターたちのブーイングが始まった。「俺たちの一年は何だったんだ!」。不甲斐ないシーズンが終了したことへの怒りだ。すると、社長の野々村が現れて、「すまん、みんな!聞いてくれ!」と、説明を始めたのだ。野々村の説明が終わると、スタンドのサポーターたちは横断幕を広げ始めた。「一生俺達の白い恋人」「遠征はJALで行こう」「乾杯はCLASSIC」「空港まではJR」など、コンサドーレのスポンサー企業を、「せーの」で応援し始めたのである。「な、なんだ、これは……」と富山が驚いていると、「債務超過に陥ったコンサドーレを助けてくれているスポンサーへのお礼」と聞かされた。

「熱い!これだよ!面白いよ!」と、富山が感激していると、サポーターが「声を出そう!」と、応援を盛り上げている。

問題は、支援する予算だ。妙案が浮かばず、話が煮詰まったとき、EZOCAを担当する前出の渡部が疑問を口にした。サポーターが企業を応援しても、売り上げへの影響はわからない。熱狂はあくまでも「体感値」である。同じく企業側が広告を出すなど支援をしても、実は具体的に効果は見えないのだ。

そこでサツドラの理想とコンサドーレの理想が重なる案が登場した。まず、EZOCAの会員数はどんどん膨れあがっており、渡部は「小さな束にわけてセグメント化しないと、顔が見える関係を維持できない」と思っていた。そこで誕生したひとつが、「コンサドーレEZOCA」というファン向けのカードだ。カードで買い物をすれば、ポイントの0.5%をチームに還元できる。レシートを見るたびに、コンサドーレへの貢献が実感できて、習慣化できる。

コンサドーレのサポーターはJリーグで平均年齢がもっとも高い46.1歳。コンビニでビールやお茶を買っていた男性ファンが、サツドラで買うようになった。金額以上に大きかったのが、野々村の理想と重なったことだ。

野々村に聞くと、「なぜ、人はそのチームを応援したいと思うんでしょうね」と切り出した。

「強いという価値基準だけでサッカーを見たいのであれば、テレビでFCバルセロナの試合をずっと見ていたらいい。でも、サッカーは水戸黄門のドラマとは違い、勝って溜飲を下げる以外の楽しみがあります。地域のみんなと一緒にいいチームをつくっていく楽しみです」。

野々村は「1万人のファンはコンサドーレの社員のようなもの」と公言し、積極的にファンの前に出ていき、チームの経営状態を説明していった。パワポを使って、選手に予算を使えない分、どうやって力の差を埋めていくか、売り上げを上げるにはどうしたらいいか、ファンにアイデアを語り続けた。彼はこう考えている。

「日常の中にサッカーを溶け込ませたいのです。朝起きて、選手のことを家族のように心配する。それは疲れることかもしれません。しかし、その分、嬉しいことも増えるはずです。僕らと接点を多くもって、みんなで一緒に盛り上げていく体験をしたいのです」。

参加型のチームにするには、接点が2週間に一度のホームゲームだけでは少ない。しかし、コンサドーレEZOCAを使うことで、毎日、接点ができる。

16年、J1への昇格が決定した。17年には「タイのメッシ」と呼ばれる国民的スター、チャナティップが加入。タイのメディアがチャナティップに密着し、北海道での様子がタイで連日放送されている。おかげで北海道はタイ人観光客でいっぱいだ。

「コンサドーレはアジアで存在感を示したいし、北海道の子どもたちも将来、アジアでのプレーを目指してほしい」と、野々村は言う。彼は社長就任後から、ベトナムやインドネシアのクラブと連携。現地には日本企業も多く進出しており、現地での企業の認知度を高める手段として、コンサドーレを利用してほしいと提案する。

文=藤吉雅春 写真=佐々木 康

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