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2018.06.14

服ではなく「生地」が売れる 世界における国内ブランドの勝ち筋とは

Olena Yakobchuk / Shutterstock.com


海外でその独自性が評価され成長しているブランド、ビズビムのクリエイティブディレクター中村ヒロキ氏は次のように言う。

「日本の産地には素晴らしい職人と技術があるにも関わらず、残念ながら活かしきれていない。僕らクリエイターがもっともっと頑張らなくてはならない」

中村氏は産地に足繁く通い、産地に継承されている伝統技法を自身のブランドで新たな価値に変えている。例えば、奄美地方に伝わる泥染めや福島の真綿の製法技術を活用して、独自性の高い新製品を作り出し世界で高く評価されている。

実際、ビズビムに限らず、これまで世界で評価されてきたコム・デ・ギャルソンのような日本のデザイナーブランドは、デザイナーやクリエイティブチームが産地に赴き、工場や職人と対話を行う中で、協働で新しい素材を開発しクリエーションの質を高めてきた歴史がある。

デザイナーと産地が身近な関係を保ち、お互いを刺激しながらコラボレーションしていくことは、クリエイティブが肝のラグジュアリーブランドに近いほど重要だ。実際、ルイヴィトンやエルメスなどフランスのラグジュアリーブランドは、オートクチュールの生産で重要なアトリエと呼ばれる工房を早くから保護し、職人を大切にしてきた。ブランドビジネスにおける産地、生産現場の重要性を昔から理解していたからである。

また、付加価値の高いデザイナーズ/ラグジュアリーブランドが育ち取引量が増えると、生産背景側にも大きなメリットがある。工賃が上がり、小ロットで低単価・短納期の仕事から解放され、よりクリエイティブな仕事に集中できる。職人の心身が健康となり、仕事の誇り、プライドも高まり、後継者も現れやすくなり技術継承に繋がるだろう。

経済産業省は今年「若手デザイナーコンソーシアム」を立ち上げ、日本人デザイナーの育成に本腰を入れて取り組み始めた。また、先日発表された世界的な若手クリエイターの登竜門であるファッションコンテスト「LVMHプライズ2018」では、日本人としてはじめてダブレットのデザイナー井野将之氏が栄冠に輝いた。次を担う若手デザイナーは間違いなく出てきている。

我々業界に関わる人間は、このような次代を担うクリエイターと国内背景・産地を繋ぎ、全力でグローバルで売れるブランドに育て、最終製品輸出額を拡大し産業構造の歪み・断絶を解消していくことが必要だ。こうしている間にも貴重な技術を持った職人が一人また一人と現場から退いている。時は誰にも平等に流れていく。これからの5年、10年は貴重な国内生産背景を次代に残せるかのラストチャンスとなるであろう。

連載:数字で読み解くファッション業界の現在
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文=福田 稔

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