「The Study of ISE」は、伊勢市と伊勢神宮と関係が深い皇學館大学、そして南カリフォルニア大学(USC)の日本研究所が共同で進めるプロジェクトだ。
「いま世界の新潮流として、SBNRという指標があります。これはSpiritual But Not Religious、つまり宗教ではないが精神的なもの。アメリカの著名な世論調査で、18歳以下の78%がSBNRで、特定の宗教に帰属していないがスピリチュアルなものに興味があるという結果が出たのです」。
実は、最初、伊勢市から渡邉のもとに依頼があったのは、海外ブランディング戦略についての相談だった。伊勢市は伊勢神宮を中心としたPR動画を海外で展開しており、膨大な再生数があった。
「伊勢市の方々はとても気概があって、伊勢神宮を通じて日本全体の神社文化をブランディングしていこうという高い意識がありました。アメリカでの最新の日本研究では、『神=ネイチャー』と訳します。自然と融合した生き方や価値観への関心が高まっています。これは伊勢市の海外ブランディングの方向性として素晴らしいのではないかと考え、The Study of ISEというプロジェクトを始めました」。
写真家の宮澤正明が監督した伊勢神宮の映画「うみやまあひだ」をアメリカのUSCで上映し、神社本庁と皇學館大学とカリフォルニアの日本研究者の間で文化シンポジウムを開催、自然と同調した生き方を根源とする神社文化について理解を深めた。その後、渡邉はかねてから研究していたSBNRの話を持ちかけ、世界のムーブメントにフィットするかたちで伊勢市を発信していこうとしている。
石垣島や伊勢市のプロジェクトはどちらも「主語」は地域だが、渡邉自身が主体となってすすめているプランがある。LXD 、
ローカル・エクスペリエンス・デザイン(Local Experience Design)の略で、自身が培ってきた地域活性化のノウハウを積極的に地域の人々にも伝えていこうというものだ。
「これが自分にとっては最も熱のこもった仕事です。自分がやっていることというのは、実は誰にでもできるのではないかと思っています。何がこの地域にとって大切なのかという発見の仕方や、その発信の方法を、全部教えてしまいます」。
Adobeと1泊2日のプログラムを組み、基礎スキルから地域取材、編集、配信など、それらを地域の人々に教えていく。「大義」まわりで言えば、「E」にあたるエデュケーションに重心を置いたものだ。
「福島・猪苗代町の土津神社の神主さんや日本青年会議所(JC)の方々がつくった地域PRの映像が大変カッコいい。ニューヨークを中心に流したら1日で2万回再生され、周辺のJCにも地域デザインを担当する部ができた。もう東京の会社に発注する時代ではないのです」。
渡邉の仕事は9割方が行政からの依頼だ。最初は政策として地域活性化を進めるのだが、その過程で「大義」を突き詰めていくと、最後は地域の「ジブンゴト化」に突き当たるという。「ジブンゴト化」というのは、「他人事」の反対概念だ。
「プロジェクトを進めるにあたって、地域に住んでいる人たちが誇りを持って生きていくためにどんな仕掛けが必要なのかを常に考えています。地域にいながらその良さがわからないということは多い。それを、自分たちの住んでいるところも面白いのだと自己発火させてゆきたい。そうしたジブンゴト化がたくさん起きることで、地域の活力も上がると思います」。
地域が自分たちの力だけで、活性化を進めていくようになると、自身の仕事がなくなるのではという問いに、渡邉は事もなげにこう答えた。
「そのほうが日本はもっと元気になると思っているので」。
わたなべ・けんいち◎国際電信電話(現KDDI)、朝日新聞社、内閣官房地域活性化統合事務局に勤務後、2010年に元気ジャパンを設立し、世界各国を舞台にインバウンド、輸出促進、文化交流分野の事業を展開。慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究所研究員。日本ガストロノミー学会プロデューサー。