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2018.06.11 17:00

デニムと自転車と港町 尾道「世界で一つだけの物語」


地場産業の魅力を発信する仕掛け

もともと福山の「備後絣」をはじめ、尾道周辺は繊維の名産地。伊藤忠商事で9年間働いた後に独立した出原も、故郷の福山市で繊維を扱う会社を経営していた。ディスカバーリンクせとうちの創業は、地元に危機感を覚えたことがきっかけだ。

「僕が子どもの頃は、友だちの家に行くとお母さんたちがみんなミシンで内職をしていた。それで“繊維の町”という実感があったのに、大人になって地元に戻ったら、労働力の安い海外に仕事の多くが移転していたんです。今でも備後地方はユニフォームやデニムの全国市場で高いシェアの一大産地ですが、情報発信が十分とは言えないと感じていました。デニムを切り口にPRができた意味は大きいと思います」

ここ数年の広島県の有効求人倍率は全国平均を大きく上回り、選ばなければ仕事はある。しかし若者が「ずっとここで働きたい」と思える職場は今も少ない。ディスカバーリンクせとうちの創業は、地域の特性を活かした新たな事業と雇用を生み出すことも目的だ。

同社が中心となって4年前にJR尾道駅のすぐ西側に開業したサイクリストフレンドリーな複合施設「ONOMICHI U2」をはじめ、すべての事業で約150人の雇用を生んだ。県保有の海運倉庫を改装したこの巨大な建物は、ホテル、レストラン、ベーカリー、サイクルショップなどを併設。今や国内のみならず、世界20か国から愛好者が集まる「聖地」となった。サイクリングロード「瀬戸内しまなみ海道」(広島県尾道市〜愛媛県今治市)の、本州側の出発点として活況を呈している。

出原の事業の判断基準は「この町のためになるか」。今年3月には、尾道市内で自社ブランドの自転車を製造販売する「BETTER BICYCLES」も立ち上げた。出原は、デニムに加えて、「自転車の町」としても尾道をさらに盛り上げていく。

文=大越 裕 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 「地域経済圏」の救世主」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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