友人とランチで、初めてのお寿司屋さんに入った場合のことを想像してみる。メニューは、並、上、特上。初めてのお店だから、特上が値段に見合ったものでなかったらイヤだが、並にするのもケチくさい。ここはやっぱり、「上ください」──。
こうした消費者の心理は、行動経済学で「フレーミング効果」と呼ばれる。性能・価格が高い順に3つの選択肢を提示されると、人は真ん中を選びがち、というものだ。だからこそ、販売側は中くらいのラインナップに力を入れるべきだ、と言われたりする。
いわばマーケティングのセオリーともいえるこの現象だが、近年少し様子が変わってきた。上は「中途半端」として選ばれず、並か特上のどちらかが選ばれる傾向が強くなっていると感じるのだ。
このラインナップの「並と特上化」は、日用品など安価な商品カテゴリーに高付加価値品を投入するケース(並にプラス特上)と、車や宝飾品など高価な商品カテゴリーに廉価版を投入するケース(特上にプラス並)の二つに大きく分けられる。
並にプラス特上〜ハレとケの使い分け
「並」の商品カテゴリーで、「特上」の付加価値と値段をつけて販売数を伸ばしている商品がある。まず、兵庫県にあるパン屋さん、レトワブールの「高級XO食パン」。お値段なんと1斤6500円。食材にこだわり抜き、さらに美容にいいとしてクレオパトラや楊貴妃も愛用したといわれる真珠粉を3グラム配合。セレブな女性の心をくすぐっている。
また、高知県の望月製紙が販売する3個5000円のトイレットペーパー「羽美翔(はねびしょう)」も驚きだ。シルクのような柔らかさで、どこでカットしても上品かつお洒落に見えるようデザインされた優雅なイラストをプリント。1ロール1ロールに、皇室献上品であることがわかるシールが貼られ、京都の和紙職人が手作業で作ったストックボックスに収められている。
こうした「並にプラス特上」の事例と関連性が強いのが、SNSの普及だ。SNSにアップして自分を飾る「ハレ」の状態と、アップしない気を抜いた「ケ」の状態の使い分けが進んだいまの時代。人々は「ハレ」のときに使うネタを常に探している。そんななか、超高級食パンも超高級トイレットペーパーも、話題性が高く非常にSNS映えするネタである。また、超高級とはいっても手が届く範囲の価格であり、反感を買いにくいのもいい。
こうした「ハレの日」需要で、特上商品をまず買ってもらう。そして商品の魅力に目覚めさせ、「ケの日」にも同ブランドの並の商品を選ばせる。この戦略は、競争の厳しい安価な商品カテゴリーでブランドに特色をもたせて顧客を囲い込めるうえ、特上で覚えたスペシャル体験から、並の商品も他ブランドより高めの価格設定でも売れるというメリットもある。