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もう一つ、「レフェットリオ」がとてもユニークなのは、食品廃棄問題の解消にも取り組んでいる点だ。地域のスーパーマーケットと契約し、賞味期限などが近く、本来ならば廃棄されてしまう食材を使って料理を作っている。

この日厨房に立っていたのは、アメリカ初のミシュラン二ツ星を獲得したサンフランシスコのレストラン「アトリエ・クレン」のドミニク・クレンシェフ。パリ郊外で両親が農業を営んでいたというドミニクは、食は社会の核となるもの、という思いを幼い頃から育くんできた。食品廃棄についてずっと問題意識を持っていたものの、実際にレフェットリオに参加するのは初めてだ。

ドミニクは届いた牛乳を筆者に差し出すと、「見て。これはオーガニック。どれも捨てるのは勿体無い、質の良いものばかりよ」と話してくれた。


「アトリエ・クレン」のドミニク・クレン

シェフはその日の午後3時頃に届いた食材を使って、即興で前菜、メイン、デザートの3皿を作ることが求められる。この日、ドミニクが作ったのは、薄いタルト生地の上にクリームチーズとスモークサーモン、ほうれん草などの野菜を乗せた前菜、鴨のコンフィ、そしてバナナミルクシェイク。

料理の経験次第では厨房のボランティアもできるが、プロの厨房経験のない筆者はサービスを担当することになった。筆者にとって、飲食のサービスは、大学生の時のアルバイト以来。実際の仕事については、これまで3度経験しているという、ポーリンに教えてもらうことになった。

仕事の流れを尋ねると、「まず水を注いで」などと、実際の動きを伝えられるのかと思っていたが、意外な答えが返ってきた。

「お客様が席についたら、まず笑顔でお迎えして、『もてなされている』という幸せな気持ちになってもらうように気を配って」

そう、ここで提供しているのは料理そのものだけではない。ここは、内包された幸せを含めた「愛」を伝える場所だったのだ、と改めて感じさせられた瞬間だった。

客席は90席だが、この日は公共交通機関のストライキのため、訪れたのは60人ほど。全員が政府から路上生活者として認定されたカードを保持するものの、見た目からはそうとはわからないこぎれいな格好をした人ばかりだ。

担当したのは、一人で訪れた、物静かで無骨な印象の中年男性。筆者が、「味はどうですか?」と尋ねると、話しかけられたことに一瞬驚いた顔をした後、「とても美味しい」とニッコリと微笑んだ。丁寧に骨から肉を外し、ゆっくりと確かめるように味わっている姿が、とても印象的だった。

他にも、ここで知り合った友人と待ち合わせをしているという初老の女性客、中にはすっかり仲良くなった友人同士、大きなグループで食事をしている人もいて、まるで、普通のレストランに迷い込んだのではないかという錯覚を覚えるほど。

毎日のように訪れる人も少なくなく、いつの間にかそこには自然なコミュニティが生まれ、路上生活者の精神的な支えになっていっているのだという。

文・写真=仲山今日子

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