ビジネス

2018.06.09

中国テック界の第3勢力「美団」が企業価値3兆円超えの理由

Nickolay Vinokurov / shutterstock


モバイクを27億ドルで買収

3億2000万人ものユーザーを抱える美団アプリでは、400万を超えるマーチャントがマンション賃貸からテーマパークの入場券まで、あらゆるモノやサービスを販売している。美団は事業拡大の資金を確保するため、年内に香港市場でIPOの予定で、評価額は600億ドル(約6兆6000億円)に達する見込みだ。

「美団はスーパーアプリに近づいている。彼らが目指すのは、人々の生活の基盤となるプラットフォームの実現だ」と投資会社「Qiming Venture Partners」のマネージングパートナーであるJP Ganは話す(同社は、美団に出資をしている)。

美団が現在力を入れているのが、輸送サービスのオンライン予約だ。同社は4月に自転車シェアリング企業の「モバイク(Mobike)」を27億ドル(負債を除く)で買収した。また、独自の配車サービスを中国の7都市で立ち上げ、ドライバーや乗客を確保するためにデジタルクーポンを配布している。

ユーザーは美団アプリでレストランを予約し、店舗まで移動する車も同時に手配することができるために利便性が飛躍的に向上する。美団は決済サービスも提供しており、ユーザーは美団のデジタルウォレットを使って支払いを行うことが可能だ。

オンラインサービスのエコシステムを構築した美団は、WeChatに真っ向から勝負を挑む形となった。

「美団の成長は、WeChatのビジネスに大きな影響を与えている。美団が今後も事業拡大を続ければ、勢力図は変わるかもしれない」とGobi PartnersのXuは話す。

皮肉なことに、テンセントは美団の株主でもある。これまで中国のテック業界をリードした3巨頭は「BAT」(バイドゥ、アリババ、テンセント)と呼ばれてきた。しかし、今では美団、配車サービス大手「滴滴出行(Didi Chuxing)」、ニュースアプリ「今日頭条(Toutiao)」を運営するメディア企業「バイトダンス(Bytedance)」の頭文字をとった「TMD」が、次世代を担うリーダーとして存在感を増している。

目先の利益よりも規模の拡大が大事

一方で競争環境は激化している。美団は、フードデリバリーではアリババ傘下のEle.meに対抗するために割引きクーポンを乱発し、多額のコストを支出している。割引き合戦は激化しており、ユーザーが支払う食事代が1ドルを下回ることも珍しくない。このため、美団がフードデリバリー事業で黒字化を達成するのは当分先のことになると「Pacific Epoch」のアナリスト、Steven Zhuは指摘する。

一方、上海本拠の「86 Research」のアナリストWang Xiaoyanは、レストランから得る広告費により損失を穴埋めすることが可能だと考えている。

配車サービスへの進出も美団にとっては大きな挑戦だ。同社は滴滴に対抗するため、積極的に料金の割引きを行っている。Wangはかつて、同事業の拡大のために少なくとも10億ドルの資金を準備していると述べている。価格競争の激化により、配車サービスも当面は赤字が続くとZhuは予測する。

「滴滴との闘いは美団にとって楽ではない。美団には資金力があるが、経営ノウハウは滴滴に劣る」とZhuは分析する。

それでも、美団の前途には大きなチャンスが広がっている。中国では映画館やレストランの予約はまだまだオンライン化が進んでおらず、美団のアプリを経由して多くのユーザーを送客することが可能だ。「競合に打ち勝つためには、割引クーポンを付与して新しいユーザーを獲得し、利益よりも規模の拡大を優先させることが大事だ」とQiming Venture PartnersのGanは指摘する。

編集=上田裕資

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