もう「圏外」に悩まない SXSWで注目された音波通信の可能性



フィールドシステム取締役 津久間孝成

「体験」の時代にマッチしたサービス

桑山:僕が可能性を感じているのは、エンタメ領域ですね。音波通信の強みは「1対n」、つまり大人数が集まる場所におけるやりとりに向いていること。例えば、ライブ会場やファッションショーで、企業が参加者のスマートフォンにデータを送りたい時、QRコードだと複数人が同時にアクセスするのは物理的に難しい。

しかし音波通信なら、スマホ内に入っているアプリを受信状態にしておくだけで全員が一斉にデータを受け取ることができます。何万人いても、同じ体験を同時に届けることができる。これがsoundcodeの一番の強みだと僕は思っています。日本IBMのスタートアップ支援「IBMブルーハブインキュベーションプログラム」でプレゼンをした際には、それぞれのスライドにその日のファッションやオススメの喫茶店などの情報をsoundcodeで埋め込み、発表と並行して紹介しました。すると、観客がそれぞれのスマホで情報を受信し、確認してくれました。スライド画面にQRコードを表示した場合、スマホのカメラをかざす前の観客の手が邪魔でスムーズに情報を読み取れないこともありますが、音波ならそうした事態も起こりません。

━━たしかに、最近はQRコードで置く店舗などは増えていますが、なんとなく面倒であまり読み取らないですね。

津久間:エンタメ領域では、2018年の「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」で電通と共同で開発した「tvx」を発表しました。

イベントでは、テレビで放送しているニュースを、テレビの前に置かれたクマのぬいぐるみが読み上げるという、テレビ番組などの既存コンテンツとサウンドコードを連動させたコンテンツを披露しました。テレビのスピーカーから、データを載せた人の耳には聞こえない音を流し、音波の受信機を仕込んだぬいぐるみがまるで話しているように見えるという仕組み。これの仕組みが普及すれば、ドラマ番組で芸能人が着ている服のURLをスマホで受信できるようになったり、通販番組を見ながらその商品の情報がスマホへ届いたりなど、応用可能性は無限にあるはずです。

━━なぜいまの時代に、音波通信が注目を集め始めているのでしょうか。すでに電波による通信は十分すぎるほどに普及しています。

津久間:ニーズがなかった、という理由に尽きます。サウンドコードは、2006年にフィールドシステムが特許を取得し、2016年ごろに現在の形で完成させた技術。2010年頃から各社に売り込みをかけていたのですが、成約には至りませんでした。時代のせいもあってか、ニーズを感じてもらうことができなかったんです。

桑山:僕は津久間との偶然出会ってからこの技術に惚れ込んだのですが、そのポテンシャルは「体験」の時代に大きくマッチしている部分にあると思います。現在は10社以上で導入を検討いただいております。

━━「体験」とは、先ほども仰っていたエンタメ領域のことでしょうか。

桑山:はい。音楽市場の収益構造がCDの売り上げからライブ収入に移行していることが象徴するように、現在はスポーツ観戦やファッションショーなど実際に「体験」するイベントへの注目が集まっています。このとき、アーティストが着ている服や試合に出場している選手の戦績などをスマホで収集できれば、会場での体験はより深まるはず。

このような体験型イベントは、観客の関心が「スピーカーに集まっている状態」だと思っています。観客の視線はステージやコートに集中していますが、同時に彼らの耳はそこから発生する音=スピーカーに強く惹きつけられている。

情報の提供はQRコードでも可能ですが、音波通信ならスクリーンに余計な情報を写す必要がないので雰囲気を壊すことがありません。観客もスマホでカメラアプリを起動してスクリーンにかざして……と面倒なアクションを取らずに済みます。聴衆の集中が集まっていたのに、これまでうまく使われてこなかったスピーカーを、有効活用できるんです。
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文=野口直希 写真=江口ヒロヒコ

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