ラグジュアリーブランド界の王者LVMHは、テクノロジー系のスタートアップに盛んな投資を行なっている。時価総額が1500億ユーロ(約19兆円)に及ぶLVMHで、CDF(チーフ・デジタル・オフィサー)を務めるIan Rogersは、アップルミュージックのディレクターを務めた後、2015年に同社に加わった。
Rogersはわずかな期間で3つのことを学んだという。小売店を取りまく環境やマーケティング手法の変化、そして中国市場の重要性の増大だ。先日、パリで開催されたテック系カンファレンス「VivaTech」で彼は「今は過渡期にある。これからの15年は、今までの15年とは全く別の時代になる」と述べた。
人工知能(AI)やブロックチェーン技術といった最先端テクノロジーの活用を試みる大手ブランドもあるが、LVMHのアプローチはより保守的なものだ。
「ラグジュアリー業界はアーリーアダプターである必要はない。最後尾につけたいとも思わないが、先駆者を目指す必然性はない。メインストリームが生まれる少し前に、その領域に飛び込むのが適切なタイミングだ」とRogersは話す。
Rogersらは新たなテクノロジーに投資する際、そこに明確なビジョンがあるか、ブランドの認知をもたらすものかを考える。一例としてあげられるのは、インスタグラムやフェイスブックへの取り組みだ。
LVMHは先日、ラグジュアリーEコマースの検索サイト「Lyst」の6000万ドル(約65億円)の資金調達を主導した。Rogersはいう。「検索はこれからの時代のキラーアプリになる」
Lystにはベルナール・アルノーの家族が経営する「Groupe Arnault」が、以前に4000万ドルを出資していた。現在69歳のアルノーとRogersは、新たなスタートアップとの取り組みについて、いつも話し合っているという。
パリの「ステーションF」で新興企業を育成
今回のLystへの出資はアルノーとLVMHのCEOを務めるAnish Melwani、さらに傘下の「リモワ」を運営するアルノーの息子、アレキサンダー・アルノ―を交えたディスカッションで決まったという。
Groupe Arnaultは長年テクノロジー分野に投資しており、1999年にはまだ無名だった「ネットフリックス」に出資した。また、2013年には「ネスト」に出資し、その1年後にネストはグーグルに32億ドルで買収された
LVMHは、パリの巨大スタートアップ・キャンパス「ステーションF」でも存在感を発揮している。ステーションFを設立した、グザビエ・ニールの妻はアルノーの娘のデルフィーヌ・アルノーだ。
LVMHは、ステーションFに自社のスタートアップ育成所「La Maison des Startups」を設置。89のワークステーションを用意し、毎年50のスタートアップ企業を招いている。