「香りの可視化」を実現したアロマビットが日本で起業した理由

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いかにも至極真っ当なビジネスマンといった佇まいの黒木さんだが、そんなイメージを見事に覆すその意外性にすっかり惹きつけられてしまう。

「資金調達の面からみたら、日本は海外には勝てません。しかし、日本には四季があって、豊かな食文化がある。こんなに恵まれた日本の環境から出たくないですね。むしろこれからは海外の企業を日本に呼びたい。そして日本の文化の素晴らしさを世界中に知って欲しいのです。

外国企業が日本に進出したくなるほどに、日本にあって他国にない強みとは何かというと、私は日本での普通の生活文化や食文化が大きな武器になると思っています。

これらは、かつて日本が世界を席捲してきたエレクトロニクスや自動車などの製造業、いわゆるものづくりとは大きく違います。「もの」ではなくて「コト」。それは、歴史や自然に根ざした文化力がないと生まれないのです。

なかでも、世界の人々にもわかりやすいのが、食文化です。食といえばまさに、匂いや香りそのもの。四季折々の食材に恵まれた日本は、香りを表現化、言語化、デジタル化するにはもってこいの国なのです。どうせ発信するなら、感性豊かな文化がある場所からでないと発信しがいがないと考えていたので、それが日本を拠点に選んだ理由になるのかもしれませんね」

本当の豊かさは日常に?

現在、日本の食文化が世界中で受け入れられつつあるように、日本の文化もまた世界の文化のかなかに定着しつつある。たとえば、絵文字は既に「Emoji」となり、新たな表現方法として外国文化に溶け込んでいる。

それと同じように、黒木さんはアロマイメージングセンサーを使って、「香り」という、これまでは伝えづらかった感覚を共有できる世界を、ここ日本から創造していきたいという。

大金が動き、目まぐるしく情報が行き交うITビジネスの最前線に身を置きながらも、日本の豊かな自然や食文化に価値観を見出している黒木さん。たしかに、どんな仕事に従事していても、人生において最終的には食や生活環境こそ、最も重要視するべきものなのかもしれない。

本当の豊かさとは、まさにそんなところにあるような気がする。そのことを十分に理解している黒木さんだからこそ、日本を拠点とし、この国ならではの「香り」を武器として、世界へと打って出ることにしたのだろう。

アロマビットには、最近ますます海外企業からの問い合わせが増えているという。「香り」とともに世界を巡る黒木さんの活躍を、西麻布で一献傾けながら聞くのが楽しみだ。

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文=鍵和田昇

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