「香りの可視化」を実現したアロマビットが日本で起業した理由

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世界初の技術を生かし、日本から世界へと打って出る。そんなアロマビットの創業者が、黒木俊一郎さんである。

黒木さんは元々NECのエンジニアだった。そこからゴールドマン・サックスへと転職し、アナリストとしてハイテク技術の担当をしていた。世界中から集まる最新技術を精査し、投資判断を下すのが仕事だった。

当時から人間の五感をデジタルで置き換える技術は注目されていたという。ただし、それは五感のなかでも、視覚と聴覚、目と耳だった。黒木さんは、「いずれは他の五感をデジタル化する技術が生まれて、最後は鼻じゃないかと睨んでいた」そうだ。


アロマビットの創業者 黒木俊一郎氏

そして、その目論見通りに出会った技術が、アロマイメージングセンサーだったというわけだ。当初は、社内ベンチャーとして立ち上げようとしたそうだが、かたちにならず。そこで会社をやめて、自身でアロマビットを立ち上げたのだ。黒木さんは言う。

「日本には、昔から香りの文化があるのです。現在、私たちが使う言葉も、香りにまつわる表現が多くありますし、古くは和歌のなかにも、香りについて詠んだ歌もある。香りは日本文化に根付いているのです。だからこそ、デジタルの時代である現代でも、日本から世界へと新しい香りの文化を発信したかったのです」

実は、黒木さんは帰国子女で、アメリカの大学を卒業している。もちろん英語も堪能だ。「日本から新たな香りの文化を発信する」というと聞こえはいいが、ベンチャー企業を立ち上げるとなると、アメリカのほうがいろいろと都合がいい面もあるはずだ。

日本ならでは「香り」を武器に世界へ

黒木さんがアロマビットを立ち上げる際、拠点をアメリカに置くという選択肢もあったに違いない。そこで、なぜ日本で起業したのかを聞いてみると、なんとも意外な言葉が返ってきた。

「西麻布があるからです。だって、仕事が終わった後に、美味しいものが食べられたら最高に幸せじゃないですか。日本はやっぱり世界一食べ物が美味いんですよ」

なるほど、結婚相手を落とすには胃袋をつかめ、とよく言われるが、企業の誘致にも胃袋をおさえることは効果的であるようだ。「海外に長く身を置いた人間ほど、日本食の素晴らしさを実感している」というのが僕の統計上は言えることだが、黒木さんもまさに当てはまる。
 
「それに、日本から出たらその時点で負けだと思っていました。私はもともと金融関係にいましたから、リーマンショックを直に受けました。その後に日本を離れて香港やシンガポールに逃げていく人たちをたくさん見てきましたが、自分はそういうふうにはなりたくなかったんです。
 
そもそも起業するという視点でいえば、世界から見ても日本は評価が低いんです。もっと言えば、企業は日本でやっているというだけでも不利だと思います。資金調達も難しいし、世界の最新情報も入ってこない。優秀な人材だって集まってきません。

それでも日本でやることに、日本でなければできないことをすることに、意味があると思ったんです。……まあ、実際に自分が起業するまでは、その辺の事情をあまりよく知らなかったんですけどね」
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文=鍵和田昇

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