第1に、移民は米国人の既存の仕事を守ったり、米国人のために新たな仕事を創り出したりする可能性があると、ザボドニーは指摘する。移民は消費者需要を高め、自ら事業を始め、米国内の肉体労働の海外移転を減らす可能性があるという。また、デイケアなどのサービスを提供できる移民のおかげで、高学歴の米国人女性の勤労時間が長くなったという先行研究結果も引用している。
第2に、移民は他の人々とは別の分野や地域、さらには同じ州内の労働市場でも別の部分で働く傾向にあり、米国人との競合は限られている。
第3に、米国人の中には、別の業種に移ることで移民の増加に適応する人もいる。ザボドニーは「移民が増えると、米国人はコミュニケーションに集中した職業に転職する傾向にあるという研究結果がある」と指摘。「この現象は、スキル分布の上位と下位の両方で見られる。さらに、移民によって不均衡に埋められる仕事と比較して、米国人の転職先は給与が高い仕事であることが多い」
ザボドニーはこう記している。「この結果は驚くべきものかもしないが、移民が米国人の給与や雇用にほとんど悪影響を及ぼさないという研究結果と一致している。とはいえこの結果は、米国の全労働者がうまくやれているわけではないという見方を否定するものではない。この結果が示すのは単に、一部の労働者にとって暗い労働市場の見通しを作り出してきた可能性がある、より深い構造的な力や状況は、移民のせいではないという事実だ」
ザボドニーの研究結果は、移民と経済をめぐる主流派の考え方に属している。カリフォルニア大学デービス校のジョバンニ・ペリ経済学部長は「何十年も研究が行われてきたが、移民が米国人労働者と競うことで給与が下がる、という主張を支持する結果はほとんどない」と語る。「工業国を対象とした研究の大半で、平均的に言って、移民は先住労働者の賃金には何ら影響を及ぼさなかったという結果が出ている」。ペリは30年間の実証研究を検証した上で、「移民が、低学歴の先住労働者の賃金を下げているという証拠はほとんどない」と結論付けている。
家族関係や雇用に基づいた移住の制限や、子どもの頃に親に連れられて米国に不法入国した「ドリーマー」と呼ばれる人々への救済への反対を訴える人々が根拠としているのは、米国人を移民から守る必要があるという信念だ。だが実は、この信念は誤りなのだ。