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2018.06.01 10:00

「花火大会=無料」はもう古い 小橋賢児らが挑む伝統文化のアップデート




坂本:サウンドクリエイターも、とにかく譲らない人が多かったですよね。

小橋:アツく議論し合ったのは、こちらにも理由があります。以前、石巻市を訪れた際に現地の漁師と話をする機会があったのですが、彼らは1年の半分を海で過ごすこともあり、無駄な人付き合いはしたくない、と言うんです。

「中途半端な関係なら最初からいらない」と仰っていました。その言葉を思い出し、せっかく取り組むのであれば、中途半端な関係性ではなく、全力でぶつかり合える関係性の方が良いと思い、彼らを飲み会に呼んでみたんです。

一緒にビールを一杯飲んだら、自然と関係性が出来上がっていきました。この人たちであれば、いいものがつくれると思ったし、また一緒に打ち上げのビールを飲みたいと思いました。

小橋:また飲みましょう(笑)

小勝:大きな言い合いになりそうなことも何度かありました。花火のメニューをつくるために早く音楽をくださいと言っているのに、なかなか送られてこない。もちろん作曲家さんも納期と戦いながらギリギリまでクオリティを高めているのは理解しているので、文句は飲み込みました。お互い、納期とクオリティのせめぎ合いでした。



──少し、技術的な点についても伺いたいです。花火と音楽の調和とは、どのようにして行われるのでしょうか。先ほど小勝さんは「先に音楽が届いていないと困る」と仰っていましたが、音源をもとに花火を設計するのでしょうか。

小橋:花火をつくるには、リズムやテンポによって生まれる心地よさを強く意識しています。実は、現代では花火師が一つひとつ、その場で点火して発射するケースはほとんどありません。特別な場合を除き、大体はコンピュータのプログラムを使って打ち上げます。そのため、100分の1秒単位で打ち上げのタイミングも細かく調整できる。

そのほか、花火の種類や色もチョイスします。例えば、花火大会の最後では錦花火が打ち上がるのが一般的です。ただ、STAR ISLANDでは音楽と花火の両方で魅せることが前提条件となっているので、音楽のリズムや盛り上げどころを把握した上で花火を準備しました。

感覚をハブに、いろんな技術を接続したい

──第1回の開催後、周囲の反響はいかがでしたか。また、それを受けて今後の展望などがあればお聞かせください。

坂本:まず驚いたのは、家族連れがたくさん来場されていたことです。新しいものが好きな若者ばかりが来場すると思っていましたが、従来の花火大会のイメージで訪れてくださる人もいて、うれしい誤算でした。子どもがノリノリで踊って、それにつられてお父さんが少しずつ体を動かす。そんな光景もたくさん見られましたね。
 


全体的な反響もかなり高く、海外からもライセンス契約のお話をいただいていて。複数のエージェントや大使館と打ち合わせをしている状況です。もう少ししたら、海外でもSTAR ISLANDを楽しんでいただけるかもしれません。

小橋:ロケーション・エンターテインメントには、まだまだ可能性があります。研究が進んでいる宇宙や仮想現実の要素を取り入れても面白そうですよね。テキサスで毎年開催している「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」は音楽イベントから始まって、いまでは新たな技術の発掘なども行われています。そうやって色々なものを共感覚的につなげる実験の場にしていきたいですね。

坂本:「ラボ型エンターテインメント」ですね。僕は、とにかくもっとたくさんの見せ方を生み出したいと思っています。VR技術の発展により、会場に来なくても花火を楽しむ方法が見つかるでしょうし、それによってお台場のビーチでなければ楽しめないことも生まれてくるはずです。

小橋:昨年の感想で一番嬉しかったのが、「STAR ISLANDを花火のスタンダードだと認識したいまの子どもたちから、新しい発想がたくさん生まれるはず」と言って頂いたこと。僕らも想像できない新しい価値が、ここからどんどん生まれてくれるとうれしいですね。

小勝:挑戦をさらに続けつつも、過去の伝統に恥じない結果を出していきたい。特に安全第一は絶対に忘れてはいけません。新しいものをつくるからこそ、常に最新の注意を払いたいですね。

文=野口直希 写真=若原瑞昌

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