マネー

2018.05.31 15:00

ビジネスの要素を持つ不動産投資の極意は、学びにあり

ブームが一服したと言われる不動産投資。だが、物件価格やリスクを読み解けば、成功する余地はいくらでもある、と長嶋修氏は説く。市場を知り尽くしたそんなトップコンサルに訊く、不動産投資で最も大切なこと。


現在の投資環境を私はこう見る

2012年に自民・公明両党が政権を奪還して以来、不動産投資熱が続いてきた。それに伴い不動産業務向けの貸し出しも増え、市場は活況を呈した。

だが、17年に金融庁が金融機関の不動産向けの貸し出しに対し、監視を強化するとアナウンスしてからは、融資動向は明らかに鈍化した。加えてこの4月にシェアハウスをめぐるトラブルが表面化し、5月に入って大手銀行は不動産融資の引き締めを図る傾向がある。

とはいえ、これは“行き過ぎたこと”が引き締められた程度であり、むしろ普通に不動産投資するにはまったく問題のない話である。

あるいは、15年から相続税対策としてアパート向け融資が増えてきたのだが、蓋を開けてみれば条件のいい新築物件でも意外に埋まらなかったケースもある。そこも引き締め対象となり、市場は正常な状態に戻ったのだ。

このままいったら、バブルのような状態になっていたかもしれない。それが事前に食い止められただけでも幸いだ。

では、不動産市場でいま、どんな物件に投資すればいいのか。エリアの差に着目したい。東京の都心7区で、中古の分譲マンションの成約価格が、駅から1分離れると平米でどれくらい下がるかを調べたデータがある。13年の8,222円が、17年には16,206円と急激に大きくなっているのだ。都心部であっても駅からの距離次第で、優勝劣敗がはっきりする。



一方、賃貸物件では、ある物件検索サイトによると、13年は「徒歩10分以内」で検索する人が過半数を占めたが、17年にはそれが「7分以内」になったという。この先を読むことは困難だが、顧客ニーズが厳しくなっていることは確かで、まずはその点が不動産投資のキモとなる。

次に投資の是非を全体観で考察してみよう。確かに、今は物件価格が上がりすぎて利回りが低いといった見方もある。しかし、マイナス金利が続くなかで、ローン金利と投資利回りとの差であるイールドギャップが、こんなに大きい国は世界でほかにない。融資を受けて不動産投資をするうえでは、悪い環境ではないはずだ。

また、専門家や顧客のなかには、東京五輪が開かれる20年を機に不動産価格が下落すると見る向きもある。だが、これは何の根拠もない話である。過去の事例を分析してみると、五輪の前後で開催地周辺の不動産価格が上下したのは新興国のケースだけだ。例えば、ロンドン五輪ではイギリス政府が不動産価格の変動は全くなかったと正式発表している。あえて言えば、20年の東京五輪で動きがあるのは、選手村ができる晴海ぐらいだろう。

ビジネスの要素を持つ不動産投資の極意は、学びにあり

不動産投資は本来、ミドルリスク・ミドルリターンの投資活動であり、大儲けを狙って始めるものではない。だからこそ、継続的な取り組みや学びが重要となる。

ここで私の個人的な投資活動を紹介しよう。現在のポートフォリオの内訳は、国内外の不動産のほか、海外ファンド、国内株式、外貨、仮想通貨と多様だ。比率は、事業に投資する割合が5割と高い。いちばん得意だからだ。続いて、国内不動産2割、海外不動産2割といった具合である。

なかでも海外不動産は、会社としても事業で取り組んでいる。フィリピンのセブ島ではコンドミニアムを建設中だ。またアメリカのシアトルでは、実際にマンションの再販売で成果を出した。

海外投資で着目するのは、地域の所得水準である。マンション価格の水準がそれよりも低く、今後、例えばIT企業や高所得者が移ってくるなど地域経済が発展する要因があれば買いと判断する。

シアトルの案件は大きな成果を生んだ。マンションの管理会社を変え、外装をきれいに塗り替えるなど手を加えたこともあるが、何よりも、不動産投資のノウハウを真摯に学んできた姿勢が結果となって現れたと思っている。

お気づきであろうか ────────。

不動産投資が他の投資と決定的に異なる点は、投資家の介入する余地が大きいことにある。株式投資の場合は、株主総会で意見を言えることぐらいだが、不動産投資では、売買価格の交渉から内装、リノベーションなど直接的に関与することができる。単なる投資ではなく、ビジネスの要素が強いのだ。だから面白く、また学際的な学びの姿勢がポイントとなる。

前述したシェアハウスの問題も、顧客はもう少し勉強していればトラブルに巻き込まれずに済んだと言い切れる。不動産投資には、いろいろな人のいろいろな考え方がある。それをひと通り知り、そのなかで自分にあった投資スタイルを確立すればいい。

不動産投資は本を100冊読んでから──。私はそんなことをここで伝えたい。もし実際にそれを果たせば、この分野で知らないことはなくなる。例えば、全国には約300万人の大家がいる。だがそのうち日々研鑽している人は1万人もいないだろう。所有している物件に改善改良する余地はいくらでもあるのに、学ぶ姿勢を忘れてそれに気づかないのだ。どうだろうか。そんなことを知れば、実は不動産投資には、まだまだチャンスが眠っていると思えないだろうか。


長嶋修
「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusyo.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会を設立し、初代理事長に就任。『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など。著書・マスコミ掲載やテレビ出演、セミナー・講演等実績多数。

edit by Hideyuki Kitajima | photograph by Setsuko Nishikawa

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事