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ネーミングが世界をつくる


さて、我が2歳児だが、「おとうさん、キライ!」と泣き叫び、大切なメガネをはたく。7年前、長女のときに、この現象がアメリカでは「Terrible Twos」(魔の2歳)と呼ばれていると知り激しく得心した。日本では「イヤイヤ期」。しかし、この「イヤイヤ期」を呼び変えようという動きが起きている。

この4月に朝日新聞の「声」欄に寄せられた、「イヤイヤ期」という大人の側から見た呼び方を、子どもの気持ちに添ったものに変えませんか、という投書がきっかけで、「イヤイヤ期」を言い換える募集があったという。500を超えるネーミング案には、最多の「めばえ期」の他、「自分で期」、「やるやる期」が続いたとのこと。

この流れで脚光を浴びたのは、北海道大学の川田学准教授が、5年前に保育専門誌で提案された「イヤイヤ期」の「ブラブラ期」への言い換えだ。心理学は欧米が先行しているため、2歳前後の呼び方は「魔の2歳」の他にも「ネガティビズム」など、とかく否定的な言葉でくくられている。しかし、南米での実証研究を行った心理学者バーバラ・ロゴフさんによると、「世界中のほとんどの国では、2歳児についてマイナスの形容をしていない」のだそうだ。

川田准教授が、「ブラブラ期」を発想したきっかけは次のようなものだという。あるとき、チベットからの留学生に「第一次反抗期」の説明をしたところ、「そういう子どもの姿は見たことがない」とまったく理解を得られず、逆にチベットの地元の2歳児は何をしているのかと問うと、笑いながら「ブラブラしています」と返されたそうだ。

「2歳児の躍動的な姿とこの自由な語感が、ぴたっと合うように感じました」と川田准教授は言う。そのチベットの村では、2歳児がブラブラしていると、近所の村人が誰彼なしに排泄や食事の世話をしてくれるらしい。

「トドラーテック」を提唱

そうか、君は「ブラブラ期」だったのだな。そう思って、休日の昼間、2歳の長男の手をひき、自宅近所をブラブラしてみたものの、誰ひとり知っている人に会わない。

振り返るに自分が過ごした1970年代の京都での「ブラブラ期」は、手を引いてくれる祖父母や、表を歩けば声をかけてくる近所の人のお世話になっていた(と母から聞いたことがある)。つまり、2018年の東京は「孫と住む」や「近所づきあい」で子供を育てることが消えた社会なのだろう。

さて、日々現実として2歳児と向き合う父としては、「トドラーテック」を切望する。「ベビー」から発達したよちよち歩きの期間を英語では「Toddle(トドラー)」と呼ぶものの、日本では浸透しない言葉だ。だからこそ、あえての「トドラーテック」。

この2歳から4歳あたりは、「イヤイヤ」であっても「ブラブラ」であっても子育ての難所なのではないかと思う。機能の優れた「トドラーテック」のアプリならば、進んでアプリ内課金に応じる心構えはできている。

そして、30年後。今はまだ数も数えられない長男よ。「シニアテック」を活用して、お父さんのオムツをほどよく替えてくれるのかな。

連載:ネーミングが世界をつくる
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文=田中宏和

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