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フォーブスジャパン編集次長/シニア・ライター



亀を触る感覚や温度が、遠隔で人間にも伝わる

「これが探し求めていたアバターだ!」。感嘆の声を上げるビジョネアーズは、代わる代わるテレサVを自分の分身にしては喜んだ。遠隔地と同じ場所にいるような感覚にさせる「テレプレゼンス」という概念とは違い、触覚や体験を分身と共有する。

言うなれば、幽体離脱し、ロボットを自分の身体とする人間の究極の存在拡張。この概念を、舘暲(たちすすむ)東京大学名誉教授は1980年に発表。それは「テレイグジスタンス」と名付けられた。以来、36年。日本のロボット工学とVR(バーチャルリアリティ)を引っ張ってきた舘教授が開発したのがテレサVだった。

それから約2カ月後、Xプライズ財団はサミットを開いた。財団の目的は、「人類のブレークスルー」だ。これまで有人弾道宇宙飛行コンテストや、海水からの原油回収など、大規模なプロジェクトを開催している。

リンドバーグの大西洋単独無着陸飛行が、人間の移動や観光という新たな領域を爆発的に広げたように、世界規模の賞金レースによって新たな産業を創出する企画だ。

約300人のメンターと呼ばれる投資家、学者、実業家、慈善事業家、芸術家、技術者が集まり、次期賞金レースの候補である9つのテーマを2日間にわたって審査した。このとき実演されたのが、舘教授が開発したテレサVである。


5月29日、KDDIの高橋誠社長(左)とともに「MODEL H」を披露

そして舘の研究は、ついに世界的レースの次期テーマになると決定した。これが、つい2年ほど前の出来事だった──。

96社を訪ね歩く

富岡仁が上海の裏通りにある安宿に辿り着いたのは2018年1月である。「相当やばいですよ」と苦笑する彼の宿泊先は、一泊3000円。視察先は、中国で増え始めた無人店舗だ。

「中国に行く前に、日本で96社を7カ月かけて回り、テレイグジスタンスの概念を説明して歩きました。96社のうち、現在1割の企業と話を進めています。スタートアップとしては、かなりの打率と思いません?」

屈託なく富岡が笑う。96社と中国視察。彼らが取り組むのは、私たちの「働き方」のブレークスルーである。彼らの会社設立の経緯はこうだ。

2016年のXプライズ財団の決定により、舘のもとには世界からビジネス化の依頼が殺到していた。世界初を実現させた研究を誰かが量産・普及化させなければならず、事業化は喫緊の課題だった。たまたま舘の研究室に出入りしていたのが、元三菱商事の富岡である。1979年生まれで、テレイグジスタンスの概念を舘が生んだときはまだ1歳だった。

富岡が振り返る。

「僕はもともと甲子園球場の高校野球をVRで生配信できたら面白いなと、VRの事業化を模索していました。VRの話で先生方とお付き合いをしていたら、会社を一緒にできないかと相談されたのです」

17年1月、舘を会長に据えて、テレイグジスタンス社は設立された。ベンチャーキャピタル「グローバル・ブレイン」はKDDIとともに出資を即決。世界中のロボットベンチャーを見てきた同社の青木英剛は、その理由をこう話す。

「理想のロボットは、ドラえもんです。しかし、現在の自動ロボットはまだ赤ちゃん以下のことしかできません。一方、テレイグジスタンスは人間が間に入ることで、人間と同じように完璧に動きます。汎用技術なのであらゆる産業で応用できます」

文=藤吉雅春 写真=岩沢蘭

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