ビジネス

2018.05.30

ミレニアル世代の情報行動から占う、OMO時代のショッピングのかたち

r.classen / Shutterstock.com


アメリカの先進的なリテールがいま取り組んでいること

先ほど示したデータのように、まだまだBrick & Mortarが優勢とはいえ、ミレニアル世代を中心にまったく異なるものの買い方があらわれてきています。

これまでにない幾つかのケースを紹介しましょう。まずは、リテール版のサブスクリプションモデルです。カナダのLoblawsは、プライベートブランド「President’s Choice(食品など)」について月額9.99ドルを支払うことで、お店からの直送が受けられたり、各種特典が得られたりというサービスを開始しています。



サブスクリプションは、デジタルサービスへの親和性が高い若年層を中心に、非常に自然なお金の払い方になりつつあります。音楽や動画の世界は既に「都度課金(欲しいものについてその都度お金を支払う)」から定額課金(サブスクリプション)にシフトしていますが、そのような課金モデルが逆流的に実店舗かつ実消費財の領域にも拡張していることを意味しています。

2つ目のケースとして、日本の伊勢丹や高島屋にあたるノードストロームが行っている興味深い事例を紹介します。



ノードストロームは、フラッシュマーケティングのHautelookと高級服のサブスクリプション版であるNordstrom rackをマージして、リテールを多角化しています。Loblawsのケースに引き続き、ここでもサブスクリプションの手法が出てきました。

また、商品やサービスの提供にあたり、割引価格やクーポンなどの特典を期間限定で──それが24時間など時限的なので「フラッシュ」と称される──提供するフラッシュマーケティングという手法も組み合わされているのが興味深いところです(グルーポンやポンパレなどのサービスにより脚光を浴びました)。

また、カンバセーショナルコマースというキーワードもセミナーでは紹介されていました。ルイ・ヴィトンのような高級ブランドもフェイスブック上でのチャットボットを導入し、オンライン上で買い物を完結させるミレニアル世代をいかに捕まえるかを試行錯誤しています。
 


ミレニアル世代との接点を築いていくべく、このようなウェブサービスの方法論を活かした売り方の拡張のチャレンジが、スーパーマーケットや百貨店、ハイブランドのような伝統的な業界においても見られるようになってきているのです。

これらの事例を見ていて、著書『シェアしたがる心理』でも採り上げた、Warby Parker(ワービー・パーカー)というアイウェアの会社も、無料のトライアルプログラムである「Home Try-on」という施策を通じて若年層の支持を勝ち得たことを想起しました。

このプログラムを利用するとメガネを5本まで選んで試着することができます。しかも送料は無料で、気に入ったフレームを選んで送り返すだけ。その際、利用者は、ハッシュタグをつけて試着姿のセルフィーをSNSでシェアします。「どれが一番、似合うと思う? #warbyhometryon」のように。こうしてビジュアルコミュニケーションを通じてユーザー間で情報が広がっていく構図を生み出しました。

体験の価値をここまで繰り返し議論してきましたが、体験は何も売場だけの占有物ではないことをこのケースは示します。私たちの自宅、自室も「それ」が起こる場になるということ。ワービー・パーカーはその仕組みを整えたことで、ユーザー達の感情の高まりを生み出し、ブランドとしての絆を生みだしたのでした。

セッションでも触れられていましたが、いまは約7割がオムニチャネルでのコマースを経験するようになっていて、それゆえに情報量も増えてジャーニーも複雑になっています。これからは、そうした大量のコンタクトポイントのマネジメントにAIを活用し、体験のパーソナイラゼーションを進めていくことになるでしょう(Adobeには、そのためのAdobe SenseiというAIがいます)。

OMO時代を生きるミレニアル世代の購買行動が私たちに示すヒントは、これからのマーケティングを推進する「エクスペリエンスの進化」へと照準されています。

連載 : SNSマーケティングを社会学的に考える
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文=天野彬

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