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2018.06.01

ガザ地区に電力を、「天井のない監獄」で太陽光発電に挑む若者たち

壁に囲まれたガザ地区でも、太陽の光だけは豊富にある


ガザ地区で、24時間の電力供給を想定した電力需要は400〜500メガワット。通常はイスラエルから125メガワット、エジプトから25メガワット、ガザ発電所から60メガワットの供給を見込んでいるが、それでも合計210メガワットと需要を大きく下回る。

さらに、2018年5月1日現在、エジプトからの電力供給は停止しており、ガザ発電所も燃料不足のため稼動していない。イスラエルの供給だけに頼っている状況で、人々が電気を使えるのは1日4時間程度だ。

深刻な電力不足のため、ロウソクの使用による事故が後を絶たない。数年前にはロウソクの火による火事で3人の子供が死亡。昨年も宿題をするために蝋燭を灯していた娘2人と父親が負傷したという。自家用発電機入する家庭もあるが、発電機を動かすガソリン代は同地区で1リットルあたり1.38〜1.78ドル。一般住民にとっては贅沢品だ。


イスラエルからの電力供給が止まり、ガザの住民たちは屋内で火を使わざるを得ない場合も(Chris McGrath/Getty Images)

マジドさんは、「このキットを導入すれば、発電機もガソリン代も必要なくなり、ロウソク代もいらなくなるため、月50ドル節約できる。電気不足は経済だけでなく、子供たちの成長や日常生活を脅かしている。太陽の恵みを十分に生かして、サステイナブルな電力を供給したい」と話す。

この「サンボックス」は、先日オマーンで開催されたMIT(マサチューセッツ工科大学)主催の「Arab Startup Competition 2018」、社会起業部門で準優勝を勝ち取り、今後の支援を約束された。

高まる電力需要と太陽光発電への期待

ガザ地区の面積は365平方kmで福岡市程度だが、人口増加率は2.5〜3%。2050年の人口は現在の2倍以上である480万人になると予想されており、電力需要は高まる一方だ。

2016年に太陽光発電システムの会社を立ち上げたアブドッラー・アルクルディさん(28歳)は、「太陽光発電システムの需要が益々上がってきていることを実感している」と話す。

家庭用・病院や学校などへの導入を行っており、それぞれの設置数はこの1年で150〜300%増えた。ガザ地区には太陽光発電システムを販売・設置する会社が20社以上あり、各社からの注文を受け1日平均2カ所に整備しているという。

農業分野でも安価な太陽光発電システム導入が進んでいる。太陽光を利用した温水システムや太陽光発電システムを設置する会社を経営しているジャバル・アブナダさん(55歳)。以前はパレスチナで最も大きいと言われた農場を家族経営していたが、2002年にイスラエルの攻撃により農場が破壊された。

その後、日用食品を販売する会社を立ち上げたものの2014年の戦争で再度破壊されてしまった。2010年ごろ、電力不足の状況を鑑みて、「既存の電力供給システムに頼らない、太陽光を生かしたサステイナブルで、直接電力を供給できる仕組みを作ること」を目標に会社を立ち上げた。

多くの農業用井戸が存在するガザ地区で、ジャバルさんの会社は井戸水をくみ上げるための太陽光発電システムの導入を進めている。今年までに50カ所の井戸に設置。また、ガザ地区では水道水の塩分濃度の上昇が問題となっており、同社は脱塩化システムへの太陽光発電システムの導入も進めている。この4カ月で、中古パネル4000枚(1枚255W、90ドル)を地区内に設置した。

国際機関や支援団体も積極的に太陽光発電システムの活用を推進しており、住民や企業も積極的に導入。世界銀行によると、ガザ地区の太陽光発電システムによる電力供給は、最終的に150メガワットまで高められる可能性があるという。
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文=本田圭

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