ビジネス

2018.06.03

英語ゼロから世界一に、日本人バーテンダーの新たな挑戦

ベネンシア(シェリー酒に使う柄杓)を使ってオリジナルカクテルを注ぐ後閑信吾


一方、NYや世界ツアーで吸収した自分なりの経験を基に、アジア人バーテンダーとして、これまでにないバーのスタイルを表現したいという思いも高まってきた。タイミングよく、「上海で店を出さないか」というオファーが届く。アジアに拠点を持ちたいと考えてはいたが、東京はまだ自分のスタイルが受け入れられる雰囲気ではないと思っていた。

後閑は、父親が一代で興した会社の後継ぎとして育てられたが、その期待を裏切ってバーテンダーになったこともあり、「いちバーテンダーではなく、経営者にならなければ、後を継がなかった意味がない」と考えていた。だからこそ、新しいマーケットである中国に自分の店を出し、勝負をかけるのも悪くないと思った。

実際に足を運んでみると、上海のバーシーンはさほど開拓されてはいなかった。「これは、いける」そう直感し、2014年に自らのバーをオープンする。その名はもちろん、「スピーク・ロウ」。そこには、人生を変えたあの瞬間を忘れない、そしてそのとき助けてくれた仲間への感謝の思いも込められている。

NYの「Angel’s Share」での経験から、「こんなスタイルがあったらいい」と思ったサービスを盛り込んだ。1階は小さなディスコ、2階はNYスタイルで立ち飲みもできる賑やかなバー、3階はゆったりとクリエイティブなドリンクが楽しめる落ち着いたバー、そして最上階は会員制のウィスキーラウンジにした。

さまざまなスタイルで楽しめるバーは、多くの顧客を取り込み、バーは大人気となる。2016年から始まった「Asia’s 50 Best Bars」 では第2位にランクイン。一躍、アジアの有名店となった(2018年は第3位と、3年連続でトップ3入り)。好調を受けて、2016年には、同じく上海に、食前・食中・食後酒という3通りの楽しみ方を提案する2店舗目「Sober Company」をオープンした。



そして2017年、後閑は、世界のバー業界のアカデミー賞といわれる「Tales of the Cocktail: The Spirited Awards」で、バーテンダーにとってこれ以上はない最高の栄誉である「International Bartender of the Year」を受賞する。世界的にその実績が認められた者だけが手にすることができる、名実ともに世界一のバーテンダーを意味する賞だ。

日本の若者たちにバーの魅力を伝えたい

この6月、その世界一のバーテンダーである後閑が、ついに東京へ出店をする。2006年にNYに旅立って以来、12年ぶりの日本。NYという異郷で自らの道を切り拓いてきた自身を、約160年前の侍と重ねた。
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文・写真=仲山今日子

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