好き嫌いにかかわらず、トランプ大統領は、人々が何らかの意見を持たないのが難しい人間だ。だがメキシコで出会った意見は、トランプ政権関連ニュースを取りつかれたように消費する私にとってさえも新しいものだった。
偶然の会話
その会話は何気なく始まった。私はメキシコの沿岸の町にあるホテルのエレベーターで、身なりの良い中年夫婦と乗り合わせた。私が米国人だと察したのだろう。女性の方が私をじっと見つめ、流ちょうなスペイン語訛りの英語で、メキシコ料理は好きかと尋ねてきた。
私は高校レベルのスペイン語で答えようとしたが、言葉が上手く出てこなかったため、英語で「ええ、とても」と答えた。そうするうちにエレベーターはロビー階に到着し、私たちは別々の方向へ向かった。
歩きながら私は、少々の気まずさを感じていた。夫婦は私と会話しようとしていたのに、私の方に話題がほとんどなかったような感覚だ。
運良くも、1時間ほど後にロビーで2人と再び顔を合わせることができた。
私は高校時代に習ったスペイン語の知識を総動員し、「Me gusta la comida Mexicana, pero no me gusta mi presidente(メキシコ料理は好きですが、自国の大統領は好きではありません)」とスペイン語で話しかけた。拙かったものの、2人には通じた。
すると夫の方が「そうですね」と、少々悲しげで動揺した様子で答えた。彼の英語は、私のスペイン語より上手だった。「私は彼が理解できません」と、彼は頭をゆっくりと振りながら言った。「なぜ彼が私たちを嫌うのかがわからない」
やがて、夫婦が実はロサンゼルス地域に住み、夫は大企業で機械工として働いていることがわかった。夫婦は家族の住むメキシコへ短期で帰省していたのだ。私たちは今いる町やビーチについて少し話を交わした。私は、夫の方が何か言いたげだと感じた。
「ひとつ疑問に思っていることがありまして」と彼は言った。「何でしょう?」。私は興味津々だった。彼は私の方を見やり、ためらいながらもこう聞いた。「彼は双極性障害だと思いますか?」
予期せぬ質問に、私は驚いた。私は「いいえ。そういう話は聞いたことがない。私は心理学者ではないが、全ては政治的な駆け引きであり、それが彼のやり方なのだと思う」と答えた。
彼は私の返事を聞き、うなずいた。それから私たちは別れ、それぞれの方へ歩いて行った。
マネジメントは重要
私はよく、「企業であれ国家であれ、マネジメントは重要だ」と言っている。このことは確かだ。結局どのような組織であれ、組織の評判を最も左右する立場にあるのは、その組織のトップに立つ人間なのだ。
世界中の人々に、米国の大統領は精神疾患を抱えているのではないかという疑いを持たれることは、米国の評判にとってよろしくない状況だ。