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2018.05.29

ストーリーを語るデザイナーたち——heyのCIデザインはいかにして生まれたか?

Coineyのデザイナー 松本隆応(左)、CIデザイナー タカヤ・オオタ(右)


それをもとに佐藤とCIについて打ち合わせをしたとき、佐藤が映画『WILD STYLE』に登場するゾロの話をしていて。

その話を拡散させ、方向性などを考えていたら、アルビン・トフラーの『第三の波』という本に出てくる「生産消費者」という言葉が鍵になると思ったんです。この「生産消費者」を軸にしながら、heyの「人々が本来もっている力を拡張・強調し、可能性を広げてていく存在である」というコンセプトをもとにロゴのバリエーションを考えていきました。



オオタ:アイデアのもとになるキーワードをどこから引っ張ってくるのか、これはデザイナーによって幅がありますよね。松本さんが書かれた記事を読んでいて、「すごく教養がある人だなぁ」と勝手に思っていました(笑)。

松本:佐藤のセンスもあると思います。佐藤は音楽に造詣が深く、以前も他の事業のロゴリニューアルのプレスリリースでレッドツェッペリンの話をしていたこともあるくらいです。

オオタ:最終的にCIを採用するのは経営者なので、経営者自身がどういうテーマやネタを背景にCIのことを考えているのか、実際にリクエストを出せるかも大事だと思うんです。

そういう意味で佐藤さん、佐俣さんはこれまでもさまざまなクリエイティブも見てこられた人です。そういう人と仕事をできるのは正直、羨ましいですね。



「良いCI」は見た目ではなく、時間軸で評価される

オオタ:松本さんのCIに対する考えも聞かせていただけないでしょうか。個人的な考えとして、良いCIの判断は見た目ではできないと思っていて。ロゴをつくると必ず「好き・嫌い」と誰しも好みが分かれますが、最終的にできたロゴはCIという大枠のなかでは1つの要素に過ぎません。

社内外に、企業が歩んできたプロセスを共感してもらって初めて判断してもらえると思うんです。実際、Appleやソニーのロゴは、長らく同じものを使ってるように見えて、実はすごく細かい変更を重ねています。

松本:時間軸の評価が必要ですよね。Appleのロゴもフラットに見たら、林檎が不自然にかじられていてバランスが悪いと感じるかもしれません。

でも、今では誰もが「セクシー」と思っている。そこの背景には思想など蓄積してきたものが大きく影響してくるのかなと思いますね。

流行りの書体を使うと、今は良くても5年後に見たら古くさいデザインになっている可能性もある。トレンドに乗りすぎないことは意外と重要だと思います。

アイデンティティの定義をたどると「発達の段階で獲得される自我同一性」という意味なんですね。少しずつ蓄積していくことで、企業のアイデンティティが構築されていく。
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文=奥岡ケント 写真=小田駿一

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