もうひとつの役割はエモーションを司ること。たとえば着るとテンションが上がる服、イベントのTシャツやチームのユニフォームのように一体感が出る服など、そういった類のものです。サッカーチームのサポーターがチームのユニフォームを着るのは、エモーションを変えたいからでしょう。
普段も服装を通じて、「自分がこういう人間である」や「こういう気持ちである」ということを表現していますよね。たとえば気持ちがどんよりしているときに、明るい色の服を着てテンションを上げようとする。もしくはフォーマルな場所で自分をスマートに見せたい時に、短パンは履かない。
ファッションを数値化することで、服を通じて表現する自分の気持ちや、他者へ与える印象がコントロールしやすくなると思っています。
たとえばビジネスのプレゼンの日にあまり印象が良くないジャケットを着ると「こちらのジャケットの方が15%ぐらい適応率が高く、プレゼンが成功しやすくなります」といったことをフィードバックできるようになる。これが数値化で実現されることです。
あるシチュエーションにふさわしいかどうかを、基準を設けて数値にする。それを機械がちゃんと判断できるようにするということも数値化の目的ですね。
真のファッションテック企業に必要な3つの条件
──スタートトゥデイテクノロジーズはいわゆるファッションテックの会社だと思うんですけど、先ほどのお話も踏まえて、金山さんが考えるファッションテックのあり方や、目指すべき姿を教えて下さい。
金山:現在、真のファッションテック企業はあまり存在していません。
本気でファッションテックを突き詰めるために、やろうとしていることが3つあります。ひとつは我々の中で発明したものものを、しっかりとアカデミアに発表していくこと。これは裏を返すとアカデミアに発表できるようなものを発明していこうという意思表明です。
これは「IP(知的財産)やパテント(特許)を取得する」という2つめの行動にも直結します。基本的には発明を行っている会社こそがテックを名乗っていいと思っています。その発明をいわゆるオーソリティーに認められた学会の場で発表する。
パテントとして新規性や実用性が認められ、権利を守っていいよ言っていただけるような状態にする。これはファッションテックに限らずどのような領域でも同じで、この要素がなければ個人的には「テック風」だと思っています。
3つ目が、インターネットコミュニティへの貢献です。我々はファッションテックとは言いながらも、かなりインターネットっぽい会社です。オープンソースというコミュニティに貢献していくことや、自分たちで作ったライブラリをオープンソース化して業界にフィードバックしていくといったサイクルを絶え間なく回し続ける状態。これがテックのもうひとつの側面ではないかと思います。
この3つが揃っていることが、テック企業としての最低条件。今後、ここに注力していきます。そして3つの行動をファッションの分野でやっている企業が、ファッションテックのあるべき姿ですね。
──あくまでテクノロジーをベースとしたものが幹としてあって、その上でファッション領域の事業をやるという位置付けですよね。
金山:そうですね。テクノロジーを使うだけではなく、つくる側にも回っているところが大きな違いかなと思います。
(後編はこちら)
連載:数字で読み解くファッション業界の現在
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