ビジネス

2018.05.29

アマゾン「顧客至上主義」の真髄は、「人間の善意を信用しないこと」にある

『アマゾンのすごいルール』著者 佐藤将之




システムがない「お客様第一」は、「善意の搾取」だ

──アマゾンの「顧客至上主義」では、無駄な作業を削ることで、お客様のためになる業務だけに集中しているということですね。

個人の気づきによってなされる「おもてなし」は属人的な行為です。しかし、「迷子ボックス」の例からもわかるように、アマゾンでは個人の「善意」を前提にしないシステムを構築します。世界中の人に質の高い体験を提供するためには、属人的な「善意」はあまりに不確実ですから。だから世界規模でも通用する「仕組み」を追求するのです。

日本企業の多くは、「仕組み」を整備する前から従業員に「おもてなし」を要求します。それは「善意の搾取」ではないでしょうか。本当にお客様のためを思うなら、まず「仕組み」によってお客様第一の環境を整備し、その上で「善意」を働かせるべきです。

「仕組み」がない中で無限に「忖度」を強要する「おもてなし」が重視される企業では、作業量は増える一方なのはいうまでもありません。

──「お客様のことを考える」ことの内実が、かなりクリアになった気がします。最後に、これからのアマゾンがどのように成長していくのか、簡単に聞かせていただけないでしょうか。

昨年、アマゾンの当日配送などによる宅配業者の長時間労働が問題になりました。もちろんこれについて、アマゾンは大いに反省しなければならないでしょう。しかし、私はこの原因も「仕組み」と「善意」のミスマッチによって起きたのではないかと思っています。

実は、アマゾンでも宅配業者の負担を軽減しようとしていました。過去のデータからお客様が在宅の時間に商品を渡せるよう、宅配業者に商品を渡す時間を逆算する施策を試していたのです。

実現前に事件が起きてしまったのですが、あるいは宅配業者の方ではアマゾンの要求に応えようと「善意」を働かせ過ぎてしまったのかもしれません。どちらにも非はあったのですが、アマゾンが宅配業者と一緒により良い「仕組み」をつくろうとしていたのは確かです。

人間の欲望は果てしないので、完全な顧客満足が実現することは絶対にありません。アマゾンはこれからも、「顧客至上主義」によって新たなサービスを生み出し続けるはずです。

文=野口直希 写真=小川哲汰朗

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