アマゾンジャパン17番目の社員として2000年から同社の成長に貢献。4月には『アマゾンのすごいルール』(宝島社)でその実態を余すことなく後悔した佐藤将之へのインタビュー後編。
彼は、日本の労働生産性が低い原因は過度に顧客を大切にする「おもてなし」にあるという。しかし、アマゾンが顧客をないがしろにしてきたわけではもちろんない。アマゾンが「顧客至上主義」を掲げ、常により良いユーザー体験を追求してきたのはあまりに有名だ。
日本の「おもてなし」と、アマゾンの「顧客市場主義」。一見よく似た両者の違いとは。(前編はこちら)
アマゾンの「顧客至上主義」はムダをなくすためにある
──前回、アマゾンではとにかくあらゆる要素が数字で表され、仕組み化されているとお話しいただきました。組織全体でここまで仕組み化を徹底できるのはなぜなのでしょうか。
ポリシーが一貫しているからです。アマゾンでは、全てのルールは「Customers Rule!」という大原則からのスケールダウンで構成されます。ジェフ・ベゾスが「アマゾンは地球で最も顧客のことを考える企業になる」と語ったのは有名ですが、アマゾンは「顧客至上主義」を倉庫の作業者まで含めて徹底しているのです。
新しいビジネスや仕組みの導入に迷ったら、必ず「それはお客様のためになるのか?」と問いかけます。例えば、前回は倉庫で商品の取り出しミスを防ぐ施策として「迷子ボックス」を紹介しました。商品の取り出しミスが減れば誤配送や遅延を防げるので、間違いなく顧客満足度が向上しますよね。
──全てに共通する大原則があるから、迷わず一貫した判断ができるということですね。しかし、「顧客至上主義」は多くの日本企業も取り入れているポリシーではないでしょうか。日本企業の「お客様第一」や、流行語にもなった「おもてなし」は、お客様を第一に考えるという意味で使われています。
確かに、「お客様のことを考える」という点で「顧客至上主義」と「おもてなし」はとてもよく似ていますね。しかし、アマゾンではそれらははっきり区別されます。
ベゾスがよく語る言葉に「Good intention doesn’t work , only mechanism works.(『善意』は働かない。働くのは『仕組み』だ)」というフレーズがあります。お客様のことを考えるという点では共通していても、「おもてなし」は「善意」で、「顧客至上主義」は「仕組み」なのです。
「顧客至上主義」では、無駄な作業を排除し、本当に必要な業務に集中することが求められます。だから、アマゾンではお客様のためにならない業務はすぐさま排除されます。
ある「改善」にどの程度の効果があるのかを定期的に報告するよう仕組み化していたことがありました。しかし、効果があるとわかったら、すぐさまレポートの提出はなくなりました。レポートの提出は、お客様の利益につながりませんから。