「値上げしても売れる」ラグジュアリーブランドの秘密

コム・デ・ギャルソン(Photo by Edward Berthelot/Getty Images)

2018年に入り百貨店や都心の大型商業施設が好調を維持しているが、背景には伸び続ける訪日客によるインバウンド需要と、株高を背景とした富裕層によるラグジュアリー消費がある。

グローバルでも富裕層の資産拡大を背景としたラグジュアリー市場の成長が続いており、代表プレイヤーであるLVMHグループの業績が好調なことは以前のコラムでもご紹介した通りだ。

一方、ラグジュアリーとミドルの間、アッパーセグメントに位置するプレミアムブランドは勝ち負けの差が目立つ。例えば、国内総合系アパレルが手がける百貨店向けのブランドにおいて、それが顕著だ。

それでは、プレミアムブランドとラグジュアリーブランドとはそもそも何が違うのだろうか。

ブランドづくりのプロセス

価格、歴史、顧客、デザイン等、様々な切り口が頭をよぎったかもしれないが、答えはブランドそのものの作り方にある。プレミアムブランドでは、基本的にSTPがブランド戦略の根幹にある。

すなわち「セグメンテーション(S)」「ターゲッティング(T)」「ポジショニング(P)」であり、セグメンテーションとは消費者をどのようにセグメント分けするか、ターゲッティングとはその中でどのセグメントを狙うか、そして、ポジショニングとは同じセグメントを狙う競合に対してどのように差別化するかである。

一方、ラグジュアリーブランドでは、ブランド戦略の考え方が全く異なる。ブランドの根幹は、あくまでデザイナーやメゾンの世界観や主観であり、極論を言えば顧客も競合も、ブランドの根っこの部分では全く意識していない。

ラグジュアリーブランドの立上げにおいては、そのブランドでしか味わえないオンリーワンの世界観を築くこと、作り手の主観を徹底的に磨き上げることが何よりも重要である。例えば、その点では日本が誇るデザイナーズブランドのひとつ、「コム・デ・ギャルソン」は立派なラグジュアリーブランドである。

アパレルのラグジュアリーブランドは、デザイナーの世界観が先行するデザイナーズラグジュアリーと、ブランドそのものの世界観やアイコンが先行しデザイナーの創作範囲を規定するメゾン型ラグジュアリー(エルメスなど)に分けられ、コム・デ・ギャルソンは前者の代表例だ。

1980年代にパリで一世を風靡した、ボロルックに始まる川久保玲氏の独創的な世界観を中心として、「ジュンヤワタナベ」をはじめとするサブブランドにもしっかりとその世界観が引き継がれている。コム・デ・ギャルソンの顧客は、その世界観に惚れ込んで購入するのであり、そこには他ブランドとの相対的評価は入り込む余地は少ない。

従って、多少の価格差で顧客が購入を悩むようなことは、一般的なブランドと比較すると遥かに少ない。この顧客を熱狂させその世界観の中に閉じ込めて他と比較させないことこそラグジュアリーブランドの強みであり、価格競争に陥いりにくいという点でビジネスとして魅力的なのである。

このような特徴を持つラグジュアリーブランドでは、従来のマーケティング論では説明出来ないようなマジックも、説明出来てしまう。その一つが、プライシングである。

例えば、スイスの機械式時計は、国を挙げての機械式時計のラグジュアリー戦略推進とプライシングの見直しにより息を吹き返した典型だ。オメガを例にとると、15年前、オメガのシーマスターは新品でも10万円台で、ボーナス払いで買える一般的なサラリーマンの本格時計入門編に適した時計であった。

それが相次ぐ値上げにより、今やシーマスターは、平均40万円はくだらない時計となり、分割払いにして覚悟を決めないと手が届かないブランドとなってしまった。もちろんオメガはこの間、クォーツ式を機械式にかえ、デザインを改め、細部を作りこみ、時計にストーリーを与え、その世界観を徹底的に磨き続けてきた。だからこそ、相次ぐ値上げにも関わらず、新しいファンを獲得し、業績を拡大し続けているのである。
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文=福田 稔

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