シーバイクロエ(Photo by Christian Vierig/Getty Images)
国内アパレルが苦戦する理由
一方、プレミアムブランドのプライシングはSTP戦略をベースしているため、常にポジショニング上の相対評価にさらされる運命にある。例えば、国内アパレルでは、近年百貨店チャネルをメインとした高価格帯のDCブランドやセレクトショップの高価格帯ラインが苦戦している。
原因は、ファストファッションの普及により消費者が低価格の衣料品に慣れた結果、プレミアムブランドが付けられる価格帯、ポジショニングが下がってきていることにある。15年ほど前までは、多くの日本のアパレルブランドは、三大コレクションやピティウォモ等の展示会で発信されるトレンドを意識した高感度なアイテムを、コレクションブランドの半額から3分の2程度の価格で上市し、十分な売上を作ることができた。
ところが、近年インターネットによりコレクションで生み出されるトレンドは即座に世の中に広まり、ファストファッションブランドにより即座に低価格でトレンディーなアイテムが上市されるようになった。
こうなるとプレミアムブランドに対する消費者の価格ベンチマーク対象は、コレクションブランドではなく先に上市されたファストファッションになってしまう。結果として、多くのプレミアムブランドが中心価格帯を下げざるをえず、収益性が損なわれている。
一方、ラグジュアリーブランドをブランドのアイコンとして持つ、「シーバイクロエ」のようなセカンドラインのディフュージョンブランドは、昨今の消費の二極化の中でも比較的堅調だ。これは、トップのラグジュアリーブランドを頂点とした世界観とブランド体系がしっかりしているため、消費者をその世界観の中で購買させることができ、他ブランドの価格の影響を受けづらいためだ。
このようにラグジュアリーブランドはデフュージョンブランドを作ることで、プレミアム/アッパー価格帯のブランドが持つポジショニングの弱みを補完することも出来る。
このように見てくると、マスブランドやプレミアムブランドで成功した企業が多い日本企業にとっては、ラグジュアリーブランドを手掛けるのは大変難しいことが想像できる。なぜなら、プライシングで触れたように、マス/プレミアムブランドとラグジュアリーブランドではブランドの根本の考え方に始まり、マーケティングの4P、組織・意思決定のあり方等において全く異なる考え方が求められるからである。
STPベースのマーケティングで成功している大企業ほど、組織にこれらのやり方が染み付いており、ラグジュアリーとの違いを受け入れ実践するのは難しい。従来型のマスブランドを手掛けてきた日本企業がラグジュアリーブランドを生み出せるのか(答えはYESであるが簡単ではない)、日本企業にとっての大きなチャレンジである。
連載 : 数字で読み解くファッション業界の現在
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