イギリス専門商社を営む田窪寿保社長は、時間を超えて愛される本物のモノの価値を私たちに伝えてくれる。
大学卒業後の1989年、ヴァージンアトランティック航空に入社し、パイロットたちが愛用していたグローブ・トロッターのトラベルケースに一目惚れ。9年で退社し、英国王室御用達ブランドをメインに扱うイギリス専門商社を起業して約20年になります。
製造業に関わっているというのもありますが、100年を超えてなお受け継がれていくものには理由があると思います。例えばイタリア製品というのは、買った瞬間は発色もデザインもきれいですが、1年経つと満足曲線がだんだんと下がっていく。対してイギリス製品は、最初は完璧なものではないのですが、長く持ち続けると自分のスタイルに合ってきて本当に愛着が湧いてくる。
襟と袖口に白無地の生地を用いた色物や柄物のシャツをクレリックシャツと言いますが、あれも英国人がシャツを消耗品だと思っていないから。本物のシャツは5年経つころが肌にしっくりくると言われ、それまでに擦り切れた襟口と袖口を取り替える前提でつくられているんです。
そういった「モノを修繕・修理して長く大事に付き合っていく」という風潮は、なにもイギリスだけではありません。昔の古き良き日本にもありました。「侘び寂び」とか、「伊達」「粋」だとか。いぶし銀も、きらきら輝く銀ではなく、経年した美しさをうたう言葉です。
「モノより思い出」という有名なコピーがありますが、僕にとっては「モノにも思い出」。やはり使ったら使った分だけの面白さがあるわけで、僕はそういうものに囲まれた人生を生きていきたい。捨離とはまったく無縁ですね(笑)。
もちろん、買ったものすべてが正解だったとは言いません。手元に10年残らないものは、本物ではないと思っている。そうやってあとで気づくことも、本質を知る上での学びのひとつかなと。英語で「Future Classic」という言葉があって、つまりアンティークを買うのではなく、買った本人でアンティークにするんです。これってとても素敵な考え方ですよね?
趣味はたくさんあるけれど、車は特に好きです。車の良さはこことは違うどこかに連れていってくれて、新しい自分に出会えること。趣味にして乗っているクラシックカーの場合は、昔の自分を思い出せること。大事に持ち続けていれば、モノにはタイムマシーンみたいな効用が生まれます。
先日はロンドン・エジンバラ往復1400キロメートルを日帰りで走りました。ロングドライブのリセット効果は長期瞑想に近い。それで新しいアイデアも浮かんできます。