ウラジオストクの地産地消料理「パシフィック・ロシア・フード」

ロシア料理の定番メニュー、ビーフストロガノフやボルシチ

極東ロシアの港町、ウラジオストクはグルメの町といっていい。たとえ首都モスクワから9000km以上離れていても、本場のロシア料理が楽しめるからだ。

寒冷な気候から独特の素材や調理法が生まれたロシア料理は、ヨーロッパの影響も強く、味つけも繊細だ。

伝統的には帝政ロシアの時代に、フランス料理を取り入れたことで、ロシア料理のベースは形成されたが、広い国土や多民族国家であるため、各地域の特色ある味覚が加わるなど、その発展形は多種多様である。

味付けの特徴としては、ソースやクリームが使われ、刺激の少ないまろやかなものが多く、日本人の口に合う。ロシア人は、夏はダーチャで自家製野菜をつくり、秋はキノコ狩りをしてマリネにする習慣もあり、野菜を豊富に使う。

帝政時代にストロガノフ伯爵家のフランス人調理人が歯の悪い主人のために牛肉をスメタナなどで柔らかく煮込んだといわれる「ビーフストロガノフ」や、ビーツのほのかな甘さが特徴の赤い色をした野菜入りスープ「ボルシチ」は有名だ。ボルシチはロシアの味噌汁と言われるほど、地域や家庭によって味や素材が違う。

挽き肉にパンを入れて揚げた「カツレツ」や「ロールキャベツ」など、日本の洋食に取り入れられた料理も多い。サーモンの冷製やハーブやニンニクを一緒に漬け込むニシンの酢漬けなどは、ウォッカに合う。

また、ロシアのサラダは、ミルフィーユのようにポテトやタマゴ、ニンジン、ビーツなどのさまざまな素材を重ねるのが特徴だ。ひと口サイズのロシア風の水餃子「ペリメニ」や揚げパンの「ピロシキ」など、アジアの食に近い素朴な味覚も楽しめる。

5月はムール貝、9月はダラバガニ

それだけではない。極東ロシアは日本海に面し、タイガの森に囲まれていることから、海や森の食材に恵まれており、この土地ならでは、食の新潮流も生まれている。それが「パシフィック・ロシア・フード」だ。

ウラジオストク市内には「パシフィック・ロシア・フード」を提供しているレストランが何軒もあるが、代表的な店として知られるのが「ポルトカフェ」。同店で味わえるのは、日本海で水揚げしたタラバガニやホタテ貝、イクラ、ナマコなどを使ったシーフード料理だ。

西洋風にグリルするだけではなく、鮮魚のまま生食したり、スープにしたりするので、日本人ツーリストにも好評だ。さらに、森で採れた山菜のゼンマイや松の実なども豊富に使われ、ハチミツやベリー、韓国料理でよく使われるリモンニク(朝鮮五味子)などの生薬も調味料として欠かせない。
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文=中村正人 写真=佐藤憲一

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