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「天才の野望」の実現に向けて

イーサリアムの現実社会への投入に向けては課題も多い。その一つがスケーラビリティ(処理容量)の問題だ。現在のイーサリアムの決済処理能力は1秒間に15件程度。これは大手カード会社の秒間数千件という容量に遠く及ばない。

壇上で長谷川はこう話した。「OmiseGoはプラズマというアーキテクチャーを用い、処理容量を拡大させる高速道路のようなネットワークを作っている。さらに、その上にあらゆる価値交換がP2Pでできる仕組みを構築する。また、外部の開発者が手軽につなぎ込みを行えるSDK(ソフトウェア開発キット)も開発中だ」

分散化ネットワークを基盤とした価値の交換──、その理念は決済に限らず人々のつながり方にも変化を与える。取材当日はフェイスブックのデータの不正利用が大きく報じられた最中だった。ヴィタリックはこう話した。

「古いタイプのインターネットの概念の中で生まれたのが、フェイスブックのような中央集権的なSNSだ。今回の問題も、情報を一企業が独占管理していることから始まった。ブロックチェーンならもっと安全なSNSを作れるし、それを政治的な投票システムに活用できるかもしれない」

また、分散化の力はウーバーのような巨大企業を揺るがす可能性も秘めている。世界的ベストセラー「ブロックチェーン・レボリューション」の中でヴィタリックはこう述べている。

「たいていの技術は末端の仕事を自動化するが、ブロックチェーンは中央の仕事を自動化する。運転手の仕事を奪うのではなく、ウーバーを無くし、運転手が直接仕事をとれるようにする」

「今までは思想に過ぎなかったものにテクノロジーが追いついてきたと」と話す長谷川。「ようやく本当にやりたい仕事にとりかかれるようになった」と話す宮口。

24歳の天才の野望を、二人の日本人たちが支えている。

金持ちは自分に縁遠い。そう考える人は少なくないだろう。しかしデータから見えてくる現実の富豪像は少々異なるのだ。努力、賢さ、経験、そして何よりも忍耐——。彼らの歩んだ道を辿れば、これから彼らが向かう先も見えてくる。長者番付に名を連ねる「富を生み出す人」の秘密は、5月25日発売の『Forbes JAPAN』7月号で。目次・詳細はこちら>>


ヴィタリック・ブテリン◎1994年、ロシア生まれ。カナダのウォータールー大学を中退後、19歳でイーサリアムを発表。フォーブスの試算では今年1月時点の保有資産額は4億〜5億ドル。世界各地を飛び回るヴィタリックは住居を持たず「about.me」のプロフィール欄に「現住所はキャセイパシフィック航空」と記載している。今年2月、不老不死の研究を行う「SENS基金」に240万ドル相当のイーサリアムを寄付した。

宮口礼子◎南山大学を卒業後、高校教師を務めた後、米サンフランシスコ州立大でMBA取得。12年に開発途上国の子どもを支援する「TABLE FOR TWO」に勤務。その後、米国の仮想通貨取引所「クラケン」在籍時の14年に「マウントゴックス」の破産手続き支援を行う。14年設立の日本価値記録事業者協会(JADA)の創設メンバーの一人。18年2月、イーサリアム財団のエグゼクティブディレクターに就任した。

長谷川 潤◎1999年に高校卒業後に渡米。2008年にライフログサービス「LIFEmee」を設立。翌年のTechCrunch 50でファイナリストに。13年、親友だったエズラ・ドン・ハーリンスットと共にバンコクでOmiseを創業。15年にイーサリアム財団に10万ドルを出資。17年7月に実施したOmiseGOのICOでは2500万ドルを調達した。Omiseは現在、日本、タイ、シンガポール、インドネシアの4カ国に拠点を構えている。

取材・文=上田裕資 写真=ヤン・ブース

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