そんな中、多忙なエリンに替わって子どもたちの面倒を看ながら、私生活をサポートしてきた恋人ジョージとの間がぎくしゃくし始める。
ジョージはエリンに仕事を辞めてほしいのだ。仕事よりも自分との親密な時間を大切にしてほしい。自分も終日子守りばかりでなく、外での自由な時間がほしい。これは伝統的に専業主婦の抱く不満そのものだ。
だがジョージの苦言にエリンがきっぱり言い放つ台詞には、その何倍もの切実さを感じずにはいられない。
学歴のない自分が生まれて初めて皆に尊敬された、皆が話を聞いてくれた、これまでは自分を押し殺して夫に従っていたのだと。彼女の時折過剰とも思える自己主張、納得できないことに喰い下がる態度は、「自分の働きを認めてほしい、一人前に扱われたい」という心の叫びの現れだ。
一方、巨大企業を相手に闘えるのか? という不安を抱えていたエドは、公害訴訟に強いという敏腕弁護士に参加要請。完全に上から目線のその弁護士に対し、エリンが頭の中に入っている詳細な住民情報を空で滔々と並べ立て、相手をタジタジとさせるシーンは痛快だ。
敏腕弁護士の補佐で入った学歴の高そうな女性弁護士は、住民への聴き取りで「感情抜きで事実だけを話して」などと言い、彼らから反発を招く。彼女にはエリンのような共感的態度がまったく欠けているのだ。
冒頭から学歴やキャリアのない女性ならではの悪戦苦闘が描かれるこの作品において、ヒロインは自分にないものを破天荒の行動力でカバーしていくが、最終的に600人を超える大原告団を組織し、史上最多の賠償金を勝ち取ることができたのは、自分を信頼してくれた人々にどうしても応えねばならないという、彼女の強い義侠心ゆえだろう。
連載:シネマの女は最後に微笑む
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