ATDのトニー・ビンガム会長兼最高経営責任者(CEO)と握手を交わし、出席者約1万人からのスタンディングオベーションがようやく鳴り止むと、2人は着席。オバマはさまざまな議題について、ビンガムと1時間にわたり対談した。
構成はシンプルだった。ビンガムがオバマに質問し、オバマはこれに即答する。公式な基調講演でも、事前に用意された原稿でもない。これは、オバマが即興で出した答えで、彼はその場を楽しんでいるように見えた。
彼の話を聞き、その思考の点と点をつないでいった私は、3つの重要な学びがあることに気づいた。それは、目的、インクルーシブネス(包摂性)、価値観だ。
「自分が何になりたいかではなく、自分に何ができるかを考えること」とオバマは語った。彼は会場に集まったリーダーたちに対し、見栄えの良い役職を追い求めるのではなく、目的意識について考えるよう求めた。私はこの点については概して賛成だ。私は過去にたびたび、これと同じことを主張してきた。部下が最高の自分を発揮できるようにリーダーが支援すれば、部下の個人的目標や役職上の目的に向けた意識を育むこともできる。
企業で昇進を重ねることだけが目標になれば、役職を獲得したとき本当に得られるものは何だろう?居心地の良い角部屋の役員室か、10万~100万ドル(約1100万~1億1000万円)単位の給料か、部下の頭数の増加か、それとも部署の予算の増加か──。そうなれば、むなしい感覚になるだけでなく、真の意味が失われるキャリアとなってしまうだろう。
オバマはその点、非常に明確だった。目的に沿った人生やキャリアを追求すれば、善意は結果につながる。金や権力、地位を優先する人生など、送る価値があるだろうか?
2つ目の重要ポイントはインクルーシブネス(包摂性)だ。オバマが実際に「インクルーシブ」という言葉を使ったわけではないが、彼は自身の体験談を通し、この点を実に鮮やかに描き出した。