中国テック企業が先を争う、AIとロボットの「医療活用」

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中国のテック企業らはここ数年、医療分野でのテクノロジー活用の試行錯誤を重ねてきた。小規模なスタートアップをはじめ、アリババやテンセントといった大手らも、病院の待ち時間短縮やオンライン診療に向けた試みを行なっている。

背景には中国の医師不足があげられる。中国の医師の数は1000人あたり2名以下で、OECDに加盟諸国の平均である3.3名を大きく下回る。また、医師の人数は大都市圏に偏っており、地方都市の人々は長時間をかけて大都市の病院を訪れる。これにより、都市部の大病院では待ち時間が数時間に及ぶことも珍しくない。

しかし、この状況はテクノロジー企業側から見れば、大きなチャンスでもある。アリババ傘下の「アリヘルス」はオンライン病院のネットワークを作り、処方薬を宅配するサービスを始動しようとしている。

テンセント傘下の「WeDoctor」は先日、55億ドルの企業価値を獲得し、ビデオチャットを活用したオンライン診療を行おうとしている。中国平安保険グループ(PING AN)傘下の「Good Doctor」は先日、香港市場でIPOを果たし11億ドル(約1200億円)を調達した。

WeDoctorやGood Doctorは合計で数億人レベルの登録者を抱えており、いくつかの病院では待ち時間が20%短縮できたとのデータもある。しかし、この分野の企業は政府の規制や、利用者が高額な医療費支払いを避けることにより収益面では苦戦中だ。

中国政府は公立病院での予約支援で料金を徴収することを禁じている。また、オンライン診断のビジネス自体は合法だが、保険の適用外となるため、費用は高額なものになってしまう。さらに中国では偽の治療薬が問題化したため、2年前に薬のオンライン販売は規制され、政府は今後も規制を緩めない方針だ。

そのため、この分野で上場した企業の株価も低迷が続いている。Good Doctorの株価はIPO当時から大きく下落した。アリヘルスも黒字化に苦戦し、時価総額はピーク時から130億ドル近い減少となっている。

一方でロボット診療に活路を見出そうとする企業も多い。アリババやテンセント、さらに「Infervision」や「Yitu Technologies」といった企業らが、AIを活用した診断ロボットを開発している。テンセントは昨年「Miying」という名の医療画像診断ツールを発表し、既に中国全土の100カ所の病院でガンの早期発見に役立てようとしている。

中国では放射線科医師の数も不足しているが、テンセントのツールは10秒以内に肺ガン検診を行なうことが可能で、精度は90%以上に達しているという。

AIの医療分野での活用において、中国の利点は西洋諸国ほどプライバシーの概念が厳格ではないことだ。中国のテック企業は莫大な量の医療データを活用し、ロボットの訓練を行える。

「中国の地方政府はより多くの患者のデータを活用し、医療テクノロジーの向上に務めている。この分野の発達はまだゆるやかなペースだが、着実な成果が得られつつある」とボストン・コンサルティンググループの現地アナリストは話した。

編集=上田裕資

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