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世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

ucchie79 / Shutterstock.com

筆者は発見した。47都道府県の乳幼児死亡率と、100年前のスペイン風邪の死亡率。ふたつには強い相関性があった。


今季のインフルエンザは日本だけでなく世界的にも大流行した。奇しくも100年前の1918年、スペイン風邪(新型インフルエンザ)がパンデミックとなった。死者数は世界で2000万人とも1億人ともいわれる。スペイン風邪は第一次世界大戦中から始まったが、病死者数は戦死者数の比ではない。

ウイルスの存在すら未知の時代の話である。ワクチンや薬もなく、人々はどうやってこの難局を乗りこえたのだろうか。

日本におけるスペイン風邪の状況はどうだったか?貴重なデータが国立国会図書館のマイクロフィルムに残っていた。大正11(1922)年、当時の内務省衛生局がまとめた「流行性感冒」と題する報告書だ。

片仮名交じりの古い書体で〈約二千三百八十余萬人ノ患者ト約三十八萬八千余人ノ死者トヲ出シ疫学上稀ニ見ル惨状ヲ呈シタリ。(中略)本病ノ予防方法ハ尚今後ニ於ケル学術的研究ニ待ツヘシト今次流行ノ際ニ於ケル施設ハ叉以テ今後ノ参考スニ足ルモノアルヘキヲ信ス〉と記されていた。先人の無念と将来に託す意思に胸が熱くなった。

私は日本の47都道府県のスペイン風邪による超過死亡率の計算を試みた。東京のそれは最も低く10万人当たり4人。一方、香川県が最悪で56人。同じ時代、同じ日本でありながら、14倍の格差である。これはスペイン風邪流行前年の乳幼児死亡率の47都道府県格差と強い相関を示していた。

当時の乳幼児死因上位は肺炎、脱水、麻疹、髄膜炎だ。現代では救命や予防することができて当たり前の病気である。つまり、平時より救命・予防しうる病気を確実に救命・予防できる地域社会は有事の際にも強いことを示唆している。「危機管理は平時にあり」というわけだ。しかし乳児死亡率の都道府県格差はいまだに大きい。2015年のデータを見ると、高い県と低い県の差は4.6倍もあるから驚きだ。

アメリカではどうか?同様に都市間で死亡率に17倍もの差がみられた。フィラデルフィアはスペイン風邪患者が市内で発生してもどこ吹く風。対策するどころか流行加速期に20万人が参加する戦勝パレードを敢行し、次の1週間で市民10万人当たり250人が死亡するという最悪の事態を招いた。

一方、ニューヨーク。流行が本格化する前から患者を隔離しただけではなく、患者と接触した人々までも検疫下に置くなど、その対策は徹底していた。その結果、死亡率は数分の1となる。薬やワクチンではなく、市長の判断とリーダーシップが大勢の命を救ったのだ。

私は東京都をはじめ、いくつかの自治体でスペイン風邪時の対策事例について講演する機会を得た。驚くことにその翌年の2009年、新型インフルエンザがパンデミックとなったのである。そして日本は世界の中でも死亡率を最も低く抑えることができた。

天国にいる先人の「導き」を信じずにはいられなかった。


うらしま・みつよし◎1962年、安城市生まれ。東京慈恵会医大卒。小児科医として骨髄移植を中心とした小児がん医療に献身。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院にて予防医学を学び、実践中。桜井竜生医師と浦島充佳医師が交代で執筆します。

文=浦島充佳

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