ピチャイは、多様性に関する議論に正面から向き合った。ダモアを解雇して差別を批判する旨の電子メールを全社に送信し、家族との休暇から早めに戻って、この危機への対応を率いた。グーグルへの世間の印象が悪化する中、ピチャイの評判は上がった。
国や企業の評判を測定・管理する米コンサルティング企業、レピュテーション・インスティテュート(RI)のスティーブン・ ハーングリフィス最高研究責任者(CRO)は「グーグルの『悪しきことをしない』信念を体現しているのがピチャイCEOだ」と語った。
企業の評判について毎年報告書を発表しているRIは、今年初めてとなる、世界のCEO評判ランキングを発表した。RIはランキング作成のため、2018年1~2月に15カ国の2万8000人にアンケートを実施。評価対象となったのは、会社の認知度が50%以上、自身の認知度も10%以上のCEO139人だ。
この調査から判明した最も顕著な点は、CEOの役割の大きな進化だろう。ジャック・ウェルチのように財務的成果を上げたり、スティーブ・ジョブズのように革新的な製品を開発したりするだけでは、もはや十分ではない。現代のCEOは「活動家」にならなければならないのだ。
「現代のCEOは人々に力を与え、世界レベルの製品を実現する。しかしそれ以上に、社会にとって正しいことを常に実行することが重要」とハーングリフィス。「自身の立場を明確にし、シチズンシップ(市民活動)やガバナンス(統治)に関連した措置をはじめとした、重要な社会問題に寄り添えるCEOたちが、非常に高く評価された」
ピチャイCEOがRIの指標「RepTrak(レプトラック)」のスコアで81.4を獲得し首位の座に着いたのも驚きではない。ピチャイは2015年の就任以来、すでに革新的だったグーグルで新分野の開拓を進めてきた創造的な思想家として尊敬を集めてきた。しかしそれよりも重要なのは、彼がグーグル内だけでなく世界の舞台でも透明性を保つリーダーだということだ。
「ピチャイは自分の信念を語るだけではなく、実際に行動に移している」とハーングリフィス。インド出身のピチャイは多様性とインクルージョン(包括性)を擁護し、社内外で差別を非難してきた。
幼少期に親に連れられ不法入国した移民の強制送還を猶予する制度「DACA」の撤廃をトランプ政権が試みたとき、ピチャイは自分と同じような境遇にある移民を支援するメッセージを発信。また、米政府が軍でのトランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の人々の入隊禁止に動いた際は、トランスジェンダーの兵士の働きに感謝した。