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2018.05.23

政府の無策でネパール大地震の被災者にのしかかる「借金地獄」

チャウタラ近郊での住宅再建の模様


「再建にかかるカネが足りなかった」というのが借金の理由だが、高利貸しに頼る以外、方法はなかったのだろうか。実は、ネパール政府は民間銀行などに対し、住宅再建費用には2%の低利子で融資するよう指導している。だが、実際はほとんど機能していない。「返済能力」をタテに融資を断るケースが相次ぎ、なかには借り手に賄賂を要求してくる悪質な銀行員もいる。
 
ネパール政府は、被災した家屋を再建するため、1戸あたり30万ルピーの支援金を用意している。これは、ネパールでは小さな一軒家を建てるのに相当する費用だ。

支援金は一度には支給されず、3段階に分けて手渡される。1段階目は書類審査で「(書類を)出せば誰でももらえる」(地元記者)というもの。ここで支給されるのは5万ルピーだ。2段階目は、家の基礎部分が建てられたら15万ルピー、3段階目は、屋根を掲げる段階になれば10万ルピーという案配だ。
 
「段階ごとのチェックをして、耐震性のある住宅を再建する」というのが政府の弁だ。しかし、実際には最初の5万ルピーは生活費に消え、さらに15万ルピーを得るため、それよりも多い金額を高利貸しから借り、建築資材を買うという現象が起きている。

今年7月が2段階目の申請締め切りのため、多くの人が借金をして期限に間に合わせようとし、それによって建築資材の値上がりも起きているというから、まさに悪循環だ。

再建に着手できていないのは21万戸

ネパール政府による統計では、地震によって倒壊した建物は約79万戸。今年4月現在で、このうち約69万戸が1段階目の支援を受け、2段階目まで進んだのは約32万戸、3段階目までになると約9万戸に減っていく。

実際に再建に着手できていない家屋は、統計では約21万戸にのぼっている。7月に向けて、これらの数字は大きく変化することが予想されるが、その背景に借金まみれの構図があれば、けっして「復興が進んでいる」とは言えないだろう。

ネパールでは昨年12月に新憲法の下で初めての総選挙が行われ、野党統一共産党(UML)などの左派連合が勝利し、今年2月には新首相が就任した。大地震後、実に5回目の首相交代となる。新憲法では、2年間は首相の交代ができないことになっており、政府当局者は「これで安定した政治状況のもとで、復興のスピードアップを図れる」と自信をみせた。

選挙前には行政機能がストップし、シンドパルチョーク県などの山間部ではまったく機能していなかったと言っていい。それだけに新政権に対する期待も多いが、貧困層にのしかかる借金は、いずれネパール社会では大きな問題となることは間違いない。

連載 : South Asia Report
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文=佐藤大介

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