日本から2時間、ウラジオストクがフォトジェニックな4つの理由

高台の上に立つロシア正教のパクロフスキー教会


人物スナップが楽しめる町

三つ目のポイントとして、旧ソ連時代のトロリーバスや路面電車、ケーブルカーなどのレトロな乗り物が残っていること。交通インフラの現代化の遅れといってしまえばそれまでだが、製造年代ごとに異なるボディのデザインの違いなど、見るだけでも面白いし、さらに実際に乗ってみるとなお楽しい。

ほかにも、郊外にある市場やそこに並ぶ泥だらけのニンジン、大きく切り出された食肉の塊、日本海の海産物、タイガで採れたハチミツ、ロシア人の生活に欠かせない日用雑貨など、フォトジェニックなものを挙げればキリがないが、われわれの生活になじみのない被写体がたくさんある。

チョコレートなどの商品パッケージで使われるキリル文字自体が新鮮だが、ぬくもりのあるロシアの商業デザインが気になる人もいるだろう。

だが、何より魅力的な被写体は、この町に暮らす人たちではないだろうか。ここで取り上げた人物ポートレイトは、写真家の佐藤憲一氏と一緒に町を散策しながら、偶然出会った人たちをその場で撮ったものだ。佐藤氏は言う。


肉屋のおじさんも満面の笑顔を見せてくれた(左)キタイスキー市場のパン屋のおばあさんも愛嬌たっぷり(右)

「ロシアという国は、強面のプーチンや米国と敵対しているイメージから、親しみにくい国というイメージがあった。だが、実際に訪ねてみると、とてもシャイで親切な人たちばかりで、日本人のメンタリティに近いものを感じた。それがわれわれと同じ顔をした中国人や韓国人ではなく、美男美女も多い白人であることが不思議な気がした。しかも、写真を撮ろうとすると、ポーズを取ってくれるのが面白かった」

そう、この町の人たちは、カメラを向けると、若い子に限らず、気持ちよさげにポージングしてくれるのだ。少々やりすぎに思えるポーズも、それなりにカッコよく見えてしまうのは、スラブの血のなせるわざだろうか。なんにせよ、これほど人物スナップが楽しめる町はないのだ。

首都モスクワではこうはいかないだろう。ウラジオストクは大都会ではなく、ロシアの一地方都市にすぎないぶん、そこで暮らす人たちは都会の人間に比べれば慎み深い。

だが、それ以上にソ連崩壊までの長い間、外国人のみならず同じロシア人ですら訪問が禁じられていた閉鎖都市だっただけに、笑顔で近づいてくる日本人に対してまだ十分慣れていないものの、崩壊後の苦難を乗り越えた経緯で親日的になった人も多いことから、親しみを精一杯表現してくれているのかもしれない。

だからといって、いきなりシャッターを切るのはNGだ。ゆっくり近づき、ロシア語がわからなくても笑顔で声をかければたいていOK。もっとも、こうしたツーリストと住民の蜜月時代がいつまで続くかわからない。だとしたら、いまウラジオストクを訪ねておくべきではないだろうか。

連載:国境は知っている!ボーダーツーリストが見た北東アジアのリアル
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文=中村正人 写真=佐藤憲一

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