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2018.05.24

廃墟と化す「既存不適格マンション」 それでも建て替えが進まない理由

kurosuke / Shutterstock.com

いま、世の中には廃墟になりそうなマンションの予備軍がごまんとあるのをご存知だろうか。

都内某所にある築40年、総戸数50戸の中古マンションは、築10年目に大規模修繕を行って以降、一度も大規模修繕を行ったことがない。というのも、毎月各戸から徴収される修繕積立金がわずか2000円程度に過ぎず、さらには滞納者への徴収も長年怠っていたため、修繕積立金が枯渇しているからだ。落下すれば凶器となりえるタイル張りの外壁でなく、塗装仕上げだったのがせめてもの救いだ。

建物というのは、とにかくカネがかかる。点検やメンテナンスを怠れば長持ちしないから、マンションは定期的に修繕を行う。この修繕には大小様々なものがあるが、とりわけ足場をかけて外壁の修繕などを行ういわゆる「大規模修繕」は、建物の規模によって数千万から億単位の金がかかることがあるのだ。

こうした修繕は、所有者が積み立ててきた「修繕積立金」でまかなうが、積立金が足りなければもちろんできない。廃墟になるのを待つか、各住戸で数十万~百万単位の一時金を出すか、はたまた所有者で構成する管理組合で、金融機関から借入れをしたうえで積立金をアップし借金を返済するなどの後ろ向きな選択肢しかない。

ならば「建て替え」という選択肢はどうだろうか。残念ながらほとんどのケースで期待はできない。これまでに行われたマンションの建て替えは2017年4月1日時点で実施準備中のものまで含めて256例に過ぎない。

マンションの建て替えを実現するためには当然、解体費や建設費などを捻出しなければならないが、所有者全員が足並みをそろえて費用を出すというのはなかなか容易ではない。

実は、建て替え事例の多くは「等価交換方式」に基づくもの。等価交換方式とは、居住者が所有している土地を出資し、その土地にマンションデベロッパーが建物を建設、建物完成後に、居住者と不動産会社それぞれの出資比率に応じた割合で土地建物を取得するといった手法だ。この手法は、建て替えをしたら今より建物が大きくなるのが前提で、その余剰分を販売することによって、所有者の建て替え資金を捻出できるというメリットがある。

つまりこれまでに建て替えが可能だったマンションは、容積率が余っていたために以前より大きな建物を建てることができ、それを売却することで資金を捻出できたから建て替えができたというわけだ。むろん、マンションデベロッパーがリスクをとって事業を行えるという前提があって初めて成立する手法でもあるゆえ、立地的に販売が難しいとデベロッパーが判断すれば実現しない。

さらには、世の中には多くの「既存不適格マンション」が存在する。既存不適格マンションとは簡単にいえば「建設当時は適法だったが、後の法改正で不適格となったもの」を指す。具体的には「建設時には容積率200%だったものが、現在は100%になっている」など。建て替えで建物が小さくなってしまうのでは、実現は到底不可能だ。
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文=長嶋修

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