無能だった私を変えてくれた凄い人たち──女優 樹木希林さん(前編)

女優の樹木希林 (Photo by Koki Nagahama/Getty Images)

このコラムでは、私の仕事の仕方、向き合い方を根本から変えてくれた恩人を紹介します。業種は違っても、何かを極めた一流の人たちの言動は、きっと、皆さんの仕事に役立つこともあると思います。

2人目は、女優の樹木希林さん。
 
2002年6月4日は、サッカーW杯日韓大会の日本代表の初戦、対ベルギー戦でした。18時開始の試合を観戦するため、キックオフの10分前、私は買って来たビールを開けてテレビの前に座りました。
 
その瞬間、携帯電話がいつもより大きな音量で、けたたましく鳴り出しました。
「絶対に出ろよ!出ろよ!」と。実際はいつもの着信と同じ音量だったのでしょうが、私の中ではそんな脚色された記憶になっています…。
 
電話の主は、電通の営業の田中さんでした。

田中:松尾、試合を見てるんやろ? すまんな

松尾:どうしたんですか?

田中:これから、希林さんに電話してくれんか?

松尾:えっ?

田中:今年の企画について、「直接、松尾さんと話をしたい」と仰ってる

松尾:今ですか?

田中:そう。今、電話を待っていらっしゃる

間も無くキックオフ。
私は、いろんな意味で、急いで希林さんのご自宅へ電話しました。

樹木:松尾さん、今年の企画はどうして、こうなったの?

7年間続いた希林さんと田中麗奈さんが母娘を演じた味の素『ほんだし』のシリーズCMの5年目のことでした。これまでの4年間は、母親が娘にみそ汁を作ってあげるという設定でしたが、この年は、一人暮らしを始めた娘を訪ねて来た母親に、娘が料理を振る舞うという設定に変わっていました。

樹木:どうして、娘が料理を作ってるの?

松尾:最近、デパートやスーパーの中食(惣菜、弁当など)が増えて、若い女性の料理頻度が落ちています。味の素さんは、若い女性が料理するきっかけ、気づきを与えたいということで、ほんだしのCMが人気なので、この母と娘でそれができないか?とオリエンがあったからです。

樹木:このシリーズはね、母親が娘へ料理を作ることを通して、その何気ない会話や時間の中に、人が生きていく上で大事なものを伝えているから良いんじゃないの? それが、人気にもつながってるんじゃないの?

松尾:はい。その通りです

樹木:じゃあ、なんで、娘が料理を作ってるのよ。
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文=松尾卓哉

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