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「食のパラダイス」をつくる自然栽培農家の私感

広大なドングリの森に放牧され、日本の3〜4倍の期間育成されるイベリコ豚

自然栽培農業集団、鹿嶋パラダイスを作るとき、私が「これだけはブレない」と決めた一つの哲学がある。それは、「思いの一貫性」を持つことだ。今回は、私が最高のイベリコ豚とハモン・イベリコを求めて、スペインを旅した経験から得たものについて話したい。

私は農業法人で働いていた時、毎年3月に2週間の休みをとり、アメリカ、ドイツ、スイス、イタリア、スペイン、フランスへ、世界を旅した。それは「品質世界ナンバー1の評価を受ける農家を訪ねる旅」である。

スペインを訪ねたのは、僕が世界で一番美味しい豚だと思うイベリコ豚の生産者と、そのイベリコ豚を使って作る最高峰の生ハム、ハモン・イベリコの工房を訪ねたかったからだ。

私とイベリコ豚との出会いはおよそ12年前、あるスペインバルで「ハモン・イベリコ・ディ・ベジョータ」を食べた時だ。それは、この世のものとは思えないくらいの衝撃で、「こんな美味いものが地球上にあるのか!」と感激に震えたのを覚えている。

ちなみに、ハモン・イベリコ・ディ・ベジョータの言葉を説明すると、「ハモン」は生ハム、「イベリコ」はスペインのイベリア半島で多く飼育されている黒豚イベリア種、「ベジョータ」とはドングリのことだ。日本では、「イベリコ豚=ドングリ豚」であるような間違った認識がされているが、ドングリを食べていないイベリコ豚もいる。放牧されドングリなどを食べてある一定の体重にまでなったものが、特別にベジョータという規格になる。

かくいう私も、最初は「イベリコ豚=ドングリ豚」だと誤解していた。だから、雑誌やテレビにイベリコ豚が出てきたと思ったら、日本でイベリコ豚ブームが起き、チェーン焼肉屋やファミレスのメニューにまでイベリコ豚が登場した時には、「嘘だろ」と思った。

「これじゃ、世の中イベリコ豚だらけじゃん。おいおい、日本人、スペイン人にうまいことやられてるんじゃないの? そもそもスペインにはそんなにドングリあるのか? これだれか騙してるぞ、絶対!」

テンションMAXになった僕は、スペイン行きを決意した。そして、どこに行くべきか調べるうちに、スペイン南西部、ポルトガル国境に近いウエルバ県、ここのハブーゴJabugo村がイベリコ豚の一大産地でハモン・イベリコ・ディ・ベジョータの“聖地”であることがわかった。

そして、その村にあるサンチェスロメロ社の作るブランド、5J(シンコホタス)こそが、ハモン・イベリコ・ディ・ベジョータの中でも、味も値段も最高峰だと知ったのだ。スペイン王室、英国王室御用達、それはつまり、世界の最高峰だということ。どうせ行くのなら最高峰が作られる現場を見たい。ドングリを食べているイベリコ豚を現地で見たい、食べたい。そして、真相も見てきてやる!と。

そう決めた僕は、5Jを輸入している商社に突撃電話をして頼み込み、恐ろしい程に懐の深い担当部長さんの計らいで、サンチェスロメロ社に行けることとなった。

東京ドームの敷地にたった5頭

セビージャからバスに揺られること2時間。聖地ハブーゴ村に到着。ひとり降りたバス停は、街外れの、車通りの全くない、人の気配もない閑散としたロータリー交差点だった。聖地とは言うものの、やはりそこは“村”だ。というか、豚の聖地に来る人はそういないだろう。

おそらくここもニュージーランドの羊と同じで、村の人口よりも豚の方が多いとか言われてるんだろうな……なんて考えながらバス停のベンチに座っていると、5Jの担当者が車で迎えに来てくれた。車の窓からスペインの美しく長閑な風景を眺めていると、その中に突如、白亜の宮殿が現れた。

宮殿に車が停まり、降りると、入り口には「5J」の紋章が付いている。大きな扉を開けて宮殿の中に入ると、すぐにバーとレストランがあった。あまりの素敵さに呆気にとられたが、立ち尽くすまもなく、どんどん奥に案内される。

そのまま一番奥まで行き、建物を抜けた。すると僕の目の前には、とてつもなく広大なドングリ畑の森が広がっていたのだ。

デエサ(dehesa)と言われるそのドングリの森は、500ヘクタール、東京ドーム(グランドだけでなく上空から見た時の東京ドームの大きさ)100個分という広さ。そして、驚いたことに、この広大な敷地で同時に放牧される豚は、たった500頭なのだという。東京ドームの敷地に5頭だ。

しかも、ここに豚を放牧するのは10月から3月の半年。4月から9月までは放牧もされていない。

文=唐澤秀

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