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2018.05.20

TOKYO2020を「インクルージョン」な多様性の祭典に

(Photo by Fabrice Coffrini /Pool/Getty Images)

「インクルージョン」という言葉を初めてニュースで耳にして、眼を見開かされたのは3年前だ。しかも、その言葉の発話主体がタレントの菊池桃子さんと知り、とっさに「まさかイリュージョンではあるまいな」と疑った自分の非礼は恥じるほかない。

第3次安倍内閣の肝入り政策を検討する「一億総活躍国民会議」の民間議員メンバーとして召喚された元アイドルが、初会合の席で「一億総活躍」のネーミングがわかりづらいと批判したうえで、堂々たる代案として発言したのが「ソーシャル・インクルージョン」であったのだ。

直訳すると「社会的包摂」。この訳語のぎこちない違和感たるや、1998年に現役アイドルだった菊池桃子さんが、突如ロックグループ「ラ・ムー(RA MU)」を結成し、当時、大学生だったわたくしに与えた衝撃を思い起こさせた。

しかし、会議後の記者からの質問に答えて、さらに元アイドルは「ご存じのとおり、ソーシャル・インクルージョンというのは、社会の中から排除する者をつくらない、全ての人々に活躍の機会があるという言葉でございまして、反対の言葉、対義語は『ソーシャル・エクスクルージョン』になります」と懇切丁寧にして、明快に解説したのだ。

いつのまにか労働問題の研究で政策学修士となられていた菊池さんの飽くなき向上心には、敬服するばかりであった。まさに時代が求めている政府の会議体のネーミングとしては、ぴったりではないか。

そういえば、この「インクルージョン」なる言葉を前に見かけたことがあるぞと思い出したのが、菊池さんのラ・ムー時代、わたくしが経済学士取得のため勉学に勤しんでいた頃、ふと教養の足しにと手にした鉱物学の入門書であった。

そこには、天然の宝石にほとんどといっていいほど含まれる小さな結晶や液体、ときには虫などの「内包物」を、「インクルージョン」と呼ぶとあった。つまり、この有無が「天然」と「人工」を見分けるポイントとなり、混じり物の種類が宝石の価値を決めるとは、実に示唆的だった。

史上初のオリパラ混合リレーを

今年3月の第90回アカデミー賞授賞式、「スリー・ビルボード」の快演により見事に主演女優賞に輝いたフランシス・マクドーマンドさんが、受賞スピーチの締めくくりで語った「インクルージョン・ライダー」(Inclusion Rider)という言葉も、旬なキーワードとして話題をさらった。

「Rider」には、契約書などの「付帯条項」の意味があり、「インクルージョン・ライダー」とは、出演作品のキャストやスタッフに、一定割合の女性やアフリカ系アメリカ人やアジア人、障害者やLGBTカミングアウトなどの多様性のある人々を含めることを求める契約条項のことだ。

マクドーマンドさんは、授賞式のオーディエンスに対し、今後は契約時に「包摂条項」を要求するように訴えたのだ。世界的に#MeTooの嵐が吹くなか、主演した「スリー・ビルボード」と同様の、静かな怒りを込めた、鮮明な抵抗のパフォーマンスには大きな拍手を送りたい。
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文=田中宏和

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