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2018.05.19

大地震から3年、ネパールで広がる「人身売買」の闇

Photo by Lauren DeCicca/Getty Images

約9000人が犠牲となった2015年4月のネパール大地震から3年が過ぎた。

世界最高峰のエベレストを抱えるヒマラヤ山脈の麓として、トレッキングなど観光産業が順調な回復を遂げている一方で、被災者の中には、トタンでできた粗末な仮設住宅での暮らしをいまだに強いられている人も少なくない。

アジアでも最貧国のひとつに数えられるネパールを襲った地震は、ただでさえ脆弱なインフラに深刻な影響を与え、被害の大きかった山間部の復興をさらに困難にした。そうした場所に暮らす人々は貧困から脱することができず、人身売買の犠牲となる女性が後を絶たないという深刻な問題も生み出している。

今年4月末、首都カトマンズから車で約3時間のシンドパルチョーク県へ取材に出かけた。震源地に近く、最も被害を受けた場所だが、険しい山肌へ張り付くように点在する集落には、所々で崩壊した建物が放置されたままになっていた。


震災直後のシンドパルチョークの様子 (Getty Images)

昨年の4月にも訪れたが、状況に大きな進展はみられていない。県都チャウタラでは道路の舗装が進まず、大型の車が通るたびに土埃がもうもうと舞っている。「政府の支援は当てにならない。3年間、放っておかれたのも同じだ」住民の男性は、憤りと諦めの入り交じった表情を見せた。

被害者は年間1万人以上か

ネパールは地震後、内政の混乱により首相が次々と交替する事態となり、復興にブレーキがかかった。ネパール政府の集計では、被災した住宅の約3割が手つかずのままとなっている。地元記者は「政府が権力争いをしているなか、シンドパルチョークなどの山間部は放っておかれたのも同然だ」と話す。

復興の遅れは、女性や子どもが隣国インドに売られる人身売買の増加をもたらした。シンドパルチョーク県でも被害は深刻で、現地で人身売買の被害者救援を行う非政府組織(NGO)によると「地震後、ブローカーから『外国で稼げる安全な仕事がある』と声をかけられ、インドに連れて行かれる女性が増えている」という。
 
国連児童基金(ユニセフ)は、ネパールでは年間7000人の女性が人身売買の被害に遭っているとするが、地震後は被災した家庭の女性が貧困のために売られてしまうなど、被害者は年間1万人以上との見方もある。

被害者の女性たちは、陸路で国境管理の緩いインドに連れて行かれ、インド全体では20万人以上のネパール人女性が売春を強要されているとされる。インドを経由して、中東などに送られるケースも少なくない。
 
インド当局によると、国境で救出されたネパール人の被害者は、地震前の14年は33人だったが15年に336人に急増した。16年は501人、17年は607人と増えているが、NGO関係者は「氷山の一角に過ぎない」と指摘している。
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文=佐藤大介

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