その後、活版印刷と産業革命が起こります。これによって、一定数の人間に同一の条件とルールのもとで労働に取り組ませ、成果に応じて金銭的な賞罰を与える仕組みが生まれます。それに伴い、生じた人間の機械化と成果主義によって、かつてないほど高効率で運営されるようになったのが「オレンジ組織」です。
しかし、インターネットとIT技術の発達により個人の持つ力が大きくなったことで、賞罰のバランスが見直されるようになります。メンバーを無理に縛り付けるのではなく、生まれ持った力を発揮させる仕組みが重要視されるようになっていきます。
こうして、個々人の人間らしさや多様性を認めることで組織への帰属意識を高め、パフォーマンスを発揮させようと考えられたのが「グリーン組織」です。ただ、グリーン組織においても、ルールの制定と執行の権限はトップに委ねられており、多様性は認められていても、階層構造は依然として残されました。
ティール組織はグリーン組織をさらに進化させ、トップの指示に従って行動するのではなく、メンバーそれぞれが自己実現として自らの果たすべき仕事に取り組む、そんな新しい組織の在り方です。
階層的な指示命令系統や中央の管理機関を持たず、ルールはメンバーによって自主的に管理されます。まさに各器官が得意分野を活かしながら有機的に連動する生命体のような組織だと言われています。
こういったティール組織の考え方は、ブロックチェーンの「非中央集権化」「分散化」という考え方と非常に似通っています。
人間工学・社会工学から生まれた「ティール組織」というパラダイムが、情報工学から生まれた「ブロックチェーン」というテクノロジーと、これほど高い親和性を持っていることに私は驚きを隠せません。そして、私はこのティール組織を実際に普及させていくテクノロジーこそが、ブロックチェーンである、と考えています。
ティール組織の矛盾とブロックチェーンの福音
なぜ、私がこのように考えているのか。それはルールに基いて報酬と罰則を与えるのが個人であるかぎり、ティール組織の成立が非常に困難であるからです。
まず、現在の資本主義社会において、報酬の大部分は「給与」に依存せざるを得ません。この際、給与の最終的な支払い権限は、必ず誰か個人(多くの場合は経営者)に任せられることになります。
また、罰則についても、執行に際して誰かが権限を行使しなければなりません。さらに、合意形成や紛争の調停に際しても、誰かがその行為を取り仕切らなければならないでしょう。そして組織の中でこうした権限を持つ人間が、他の人間と平等に扱われることは、ほとんど不可能です。
この矛盾に対して解答を示すのが、ブロックチェーンの持つ「非中央集権」の力です。
というのも、ブロックチェーンの「非中央集権」とは、究極的には「ルールの執行権を特定の個人に委ねないこと」だからです。
仮想通貨は「価値の交換に関する執行権を中央の管理者に委ねない仕組み」ですし、スマートコントラクトは「契約やプログラムの執行権を中央の管理者に委ねない仕組み」です。
実はブロックチェーン業界において、誰にも執行権を委ねることなく、維持・運営される組織には、すでにDAO(Decentralized Autonomous Organization)という名前がついています。
ブロックチェーンとスマートコントラクトによって運営される、新しい組織構造「DAO」
ティール組織の特徴として提唱されているのは「組織の目的を実現し続けるために、メンバーそれぞれが自律し、一人ひとりが能力を最大限発揮する」というものです。
ブロックチェーンが実現するDAOも、これと同様の特徴を持っています。
まずはじめに、DAOの目的はプログラムコードによって設定され、全世界に公開されます。組織の目的はトークンによる投票や、合意形成のアルゴリズムによって、参加者の合意のもとに更新することが可能です。