いま注目を集める「日本にいちばん近いヨーロッパ」ウラジオストク

アールヌーヴォー建築の老舗百貨店グムの裏路地には新しいカフェやショップが生まれている



郊外にあるキタイスキー市場と1912年以来走り続けるレトロな路面電車

5. 1年を通してイベントが豊富

ウラジオストクで体験できるのは、お堅い芸術だけではない。夏はロシアのロック界を代表する地元出身バンド「ムーミー・トローリ」のリーダーであるイリヤ・ラフテンコ氏らが立ち上げたミュージックフェス「V-ROX」や、4月末に開かれたばかりのコスプレイベント「Animate It!」、2012年のAPEC開催時に造られた金角湾大橋の上を走るウラジオストク国際マラソン大会などがある。

冬は国内外のアーティストを呼んで行われるJAZZフェスティバルや12月中旬ごろから年明けまで続くクリスマスウィーク(ロシア正教ではクリスマスは1月7日のため)、そして今年2月は約30名の日本人も参加した氷雪で覆われた海上を走るアイスラン大会など、1年を通して豊富なイベントが繰り広げられている。

6. 郊外に広がる大自然

ウラジオストクの北方にはタイガ(針葉樹林)が広がり、野生のトラやヒョウ、トナカイなどの生息する世界遺産のシホテアリニ山脈がある。1975年に公開された黒澤明監督の「デルス・ウザーラ」の舞台といえば、想像がつくだろうか。郊外に広がる大自然はヨーロッパやモスクワから来た旅行者たちにとっても、エコツアーを楽しむ格好の場所になっている。


金角湾の入り口に立つトカレフスキー灯台。冬はアザラシの泳ぐ姿が見られ、夏は海水浴客でにぎわう

この街の3つのキーワード

つまり、これらの特徴を要約すると、ウラジオストクは大きくふたつの魅力があるともいえる。ひとつは、ヨーロッパの都市文化を満喫できること。もちろん、本場に比べれば見劣りするのは当然かもしれないが(なにしろ、モスクワから9300kmも離れている!)、この町の成り立ちが19世紀後半の帝政ロシア時代にあることから、ロシアの一地方都市にすぎないのに、劇場や博物館などの近代的な都市施設が驚くほど整っているのだ。

もうひとつは、スローライフを満喫できることだろう。周囲に自然があふれ、夏は郊外で家庭菜園を行う「ダーチャ」の習慣もそうだが、基本的にロシアの人たちはわれわれアジア人に比べると、のんびり屋である。

カード決済は普及しているので、買い物には困らないが、中国のフィンテックが進む方向とはまるで真逆で、バスに乗るのも小銭を用意しなければならないし、レストランで注文してから食事が出るのが遅いのはご愛嬌だ(ウラジオストクのレストランのメニューには、料金だけでなく、調理時間が書かれているほど)。この町にいると、カフェでお茶をしたり、市場を散策していても、あらゆる場面で“ゆるさ”があり、それが好ましく感じられるのだ。

さらに、この町の3つのキーワードを挙げるとしたら「フォトジェニック」「ミックスカルチャー」「スローライフ」だろうか。街中どこでも絵になるし、これほど多彩な食文化が楽しめる町も少ないだろう。

そして、ウラジオストクには日本とのゆかりの場所がたくさんある。なぜこんなに近くにヨーロッパの町が……? その謎解きが、ウラジオストク旅行の本当のテーマといえるかもしれない。次回、詳しくレポートしたい。

文=中村正人 写真=佐藤憲一

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