いま注目を集める「日本にいちばん近いヨーロッパ」ウラジオストク

アールヌーヴォー建築の老舗百貨店グムの裏路地には新しいカフェやショップが生まれている

日本人の旅行者数が国内、海外ともに過去最大だったという今年のゴールデンウィーク。では、この夏以降の海外旅行トレンドを先取りする有力候補は何処かご存知だろうか。それは、「日本にいちばん近いヨーロッパ」といわれる極東ロシアの港町、ウラジオストクだ。

その名は聞いたことはあっても、場所は何処と思われる方も多いかもしれない。日本海を挟んで日本列島の対岸に位置し、札幌と同じ緯度、新潟からは約800km、成田からのフライト時間はわずか2時間半だ。日本と欧州を陸路でつなぐシベリア横断鉄道の始発駅がある。

いまなぜ、このウラジオストクが注目されているのか? 昨年8月から、空路と海路での電子簡易ビザの発給が始まったからだ。以前のように、ロシア大使館でビザの発給手続きをする必要がなくなり、ネット申請をすませれば、あとは自分で航空券やホテルを予約するだけでだいじょうぶ。これまで年間数千人程度だった日本人渡航者数が、昨年の3倍の1万8000人超に増えた。

日本より時差は1時間早い

では、ウラジオストクはどんなところなのか? 以下、この町の次の6つの特徴について簡単に解説しよう。

1. 日本海に面した港町

ウラジオストクは日本海の北側にあり、文字どおり「日本海に面した港町」だ。旧ソ連のフルシチョフ首相の時代、「ロシアのサンフランシスコ」を目指してケーブルカーを建設したが、むしろ日本の函館や長崎に似た坂道の多い町だ。日本からの定期フェリーが鳥取県境港から出航しており、最近では日本発のクルーズ客船も多く寄航している。

2. ヨーロッパの街並み

北東アジアに位置し、日本より西に位置するというのに、時差は1時間早い。そして、そこには確かにヨーロッパの街並みがある。それもソビエト時代の社会主義建築ではなく、基層となっているのは帝政ロシア時代に造られたものだ。アジアの主要都市でよく見かける高層建築がほぼないため、昔ながらのヨーロッパの趣が残っている。


町でいちばん高い場所にある鷲の巣展望台。美しい港やしまなみを眺望できる

3. 多民族とミックスカルチャーの町

そこに暮らすのはロシア人に加え、旧ソ連時代に労働者として送り込まれた中央アジアの人たちやツングース系の先住民族たち、そして近隣アジアの人たちだ。まさに多民族とミックスカルチャーの町なのである。

4. グルメとアートの町

港町のせいでもあるが、質の高いレストランが多いのにも驚かされる。ロシア料理だけでなく、日本海の海鮮を素材としたシーフード料理店、そして中央アジア料理店がそこかしこにある。なかでも珍しいのはジョージア(旧グルジア)料理だろうか。日本ではほとんど味わうことのできないスパイシーな味覚は、世界最古とされるジョージアワインとともにこの町の人たちに愛されている。

ウラジオストクにはロシアバレエの殿堂、サンクトペテルブルクにあるマリインスキー劇場の沿海地方ステージがある。そこには日本人バレリーナが数名所属し、1年を通じてさまざまな公演が行われている。


マリインスキー劇場の舞台に立つ永瀬愛莉菜さん

とくにクリスマスシーズンに繰り広げられるチャイコフスキーの「くるみ割り人形」の公演は、サンクトペテルブルクとは異なるオリジナルバージョンだ。市内には多くの劇場や人形劇場、サーカスもある。また近々エルミタージュ美術館の別館もオープンする予定。「グルメとアートの町」と呼ばれるゆえんである。
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文=中村正人 写真=佐藤憲一

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